力を抜いての続き

※前回はこちら

『ちゃんと力を緩めて』って、何回言われただろう。私が不器用なのかもしれないけど、どうしても難しくて、ぎゅっと力が入っちゃうんだ。

力が入ってしまうきっかけはいくつかある。

まずは、彼が奥まで来る時。一番奥に『コツン』と当たるたび、震えるほど気持ちよくて、それから奥まで来てくれたっていう嬉しさで、どうしても力が入ってしまう。

それから、大きな水の音が聞こえる時。これは多分、抜く時だと思う。

彼はゆっくり動くけど、根元まで入れてから先端をほぼ出すくらい長いストロークで動く。だから、彼が先端を抜く時に『チャポン』っていう、水の音がするの。抜いてから入れるときも『プチュン』っていう音がする。

その音が恥ずかしくて恥ずかしくて、でもなぜかゾワッとしちゃって、勝手に身体に力が入る。

「どうして……力が入っちゃうんだろうね?」

ヤミが言う。責めているというより、不思議に思っている感じで。

「あ、あ、とまって……」

「このまま……話せない?すごく、ゆっくり動いているつもりなんだけど……」

「ゆっくりが……気持ちいいから、無理だよ……とまって……ああ……」

「……わかった……」

一番奥にゆっくりと押し付けて、彼は止まった。あ、また少し震えちゃった。

肘を折って近くに来てくれる。お腹がくっついていると、とても安心する。私はヤミと、ぺたっとお腹をくっつけるのがすごく好きだ。

「ヤミ……」

「ははっ……そんな目で見ないでよ。また動きたくなる」

「なんで力が入っちゃうか聞きたいんでしょ!?」

「そうだね、教えて」

「…………気持ちいいと、力が入っちゃうの……無意識に。敏感な部分を触られるとビクってするじゃない。あの、感じ。力を抜くのって……すごく、難しいんだよ」

「難しいのは、気づいてた。気づいててお願いしてた」

彼は私によく、無茶なお願いをしてくる。

でも、できなかったらできなかったで『しょうがない』って感じだし、機嫌悪くなるとかはない。ただ『自分がお願いしたいから、してるだけ』といった風で、とてもお願いの『純粋さ』を感じる(お願いの内容は別として)。

だから、彼の純粋なお願いを、できる限り聞いてあげたくなる。

「……でも、力を抜いて全部受け入れるのって、難しいけど幸せなの」

「……どうして?」

「力を抜くのって、相手のこと全部受け入れたいと思わないとできないんだよ。力を抜いている時って奥まで来やすいから、ちょっと怖いの」

「……怖かった?」

「ううん、あなたなら、いいの。奥ってね、まだ気持ちよくないときに来られると、ちょっと痛い。でもヤミなら優しくしてくれるってわかってるから、力を抜けるの」

そう。力を抜くと中が柔らかくなるから、奥まで受け入れやすくなる。だから、力を抜いて奥までヤミのことを受け入れるのは、とても好き。ここまで来てくれたって、嬉しくなるから。

「…………信頼されてるな」

「もしくは……優しくなくてもいいから全部受け入れたいって思うから、力を抜けるの。力を抜くには……とても『勇気がいる』」

「そっか………………嬉しいよ」

ヤミが目を少しふせて、静かに言う。

彼は嬉しいも、辛いも、それは嫌だも全部正直に口に出す。その正直っぷりがあまりにも清々しくて、笑ってしまいそうになる時がある。

そんな正直な彼でもたまに……どう反応していいかわからないような様子で、静かに気持ちを表現するときがある。

今が、そう。

この時の彼の様子を目の当たりにすると……私の身体の奥には例えようのない愛しさが満ちる。賢くて素直な彼ですらどう表現したらいいかわからないくらい嬉しいんだ……って。

火置ひおきさん、もっと奥まで行かせて」

「……うん……」

私は目をつぶって、力を緩める。彼の全部を受け入れる気持ちで。

ぺったりとくっついていた彼が少しだけ身体を起こし、ゆっくりと腰を引く。私の内部と彼のものがこすれることで生み出す、ヌチュヌチュとした濡れた音がすごい。それだけで体が熱くなる。でも、力を緩めなくちゃ。深く呼吸をして、私の体を全部彼に預ける。全信頼。

「すごい……柔らかい……」

うっとりとしたヤミの声が聞こえる。色気のあるその声にドキドキするけど、それすら受け入れて体を開く。奥まで来て。もっと奥。

私は、あなたが優しくても怖くても、全部受け入れたい。突然痛くしたって、全然構わないよ。それすら受け入れたいの。

私の中は、柔らかく開けば開くほどシャバシャバとした水の音が増えていくようだった。あなたへの、愛と信頼をなによりも証明するもの。体は正直だから、悦んでいないと濡れないはず。

彼は、時折ため息をつきながら、苦しくないか心配しちゃうくらいの遅さで、出たり入ったりした。

たまに『ぐりっ』と奥に押し付けたり、先端だけを出入りさせて水の音を聞いたり、左右の壁に擦り付けたりしながら、『柔らかい中』を楽しんでいるようだった。

「はあ……はあ……火置さん、気持ちいい……、ちょっとまた、興奮してきた……」

「柔らかかった?」

「うん、頑張ったね……。次は、普通にしていいよ。もどかしくて苦しい……」

「私も、普通にしたい。お腹に力いれると、もっと気持ちよくなるから……」

「……僕も、そうだ。柔らかい君は優しくて最高だけど、狭い君は気持ちよすぎて頭がおかしくなるんだよ……」

彼の声に興奮のエッセンスが混じる。その要素を私のセンサーが感じ取ってしまうと、もうダメだ。自分も抑えられなくなっていく。

「ヤミ、ヤミ、して、動いて……狭くした私でも、いっぱいして。さっきのと比べて。ね、やって……」

自分から抱きつく。お腹に力を入れて中をきゅーっと締める。彼が苦しそうに息を吐く。だめだ、私もおかしくなる。

「あ、あ、どうしよう、私おかしくなっちゃうよ。ヤミがただ入ってるだけでも、気持ちいいっ!さっき、ゆっくりいっぱいしてくれたから、体が気持ちよくなってる!だめだ、どうしよう、ヤミ……!」

ジュブン……っ

頭が一瞬真っ白になる。彼が一気に奥まで入れたんだって、1秒後くらいに気づく。

「ヤ……ミ…………」

「ああ……気持ちいい……」

言葉が出てこない。気持ち良すぎて。体がビリビリして止まらない。奥のとある一点に、ムクムクっと快感のボタンが現れるのを、私は感じていた。

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