デカルトの「方法序説」

連載中の小説「夏休みの夕闇」の主人公、灰谷ヤミ(死刑囚の男、22歳)と火置ユウ(魔法使いの女、21歳)が、好きな本について語り合うだけの会話ショートストーリー。

メイン小説のサブストーリーとしてお楽しみください。

※「夏休みの夕闇」本編のあらすじや目次はこちらからどうぞ。

方法序説 (岩波文庫 青 613-1) 文庫 R. デカルト (著), 谷川 多佳子 (翻訳) 引用:Amazon

「ヤミは、デカルトの『方法序説』読んだ?このあいだ勧めたじゃない?」

「読んだよ。ボリュームが少なかったから、気づいたら読み終わってた」

「どうだった……!?」

「デカルトと話が合いそうって思った」

「あ、やっぱり!私もヤミはちょっと考え方がデカルトっぽいと思ってた!えっと、『方法序説』に関するあなたの意見を聞きたい」

「まず、『神』に対する考え方が僕と近いかなって。デカルトは理性や真理の探求に命をかけていたみたいだけど、彼は『絶対的な真理』を神という絶対存在に紐づけているよね?」

「そうそう、ヤミっぽい」

「うん。僕も、自分で思う神様像って『真理』みたいな感じなんだよ。善の頂点というか、あらゆる理性の集合体というか。ゼウスみたいな『人っぽさ』は自分の神様の考えにはないんだ」

「うんうん!だよね。勧めてよかった」

「ところで君はどうしてデカルトが好きなの?」

「大変態※だからよ」※彼女は褒め言葉で使っています。あしからず。

「…………え?」

「私はデカルトの『方法序説』も好きだし、こうありたいって参考にする部分もあるけど、それでも全賛成ではない。つまり彼の思想が大好きってわけでもない。でも彼の生き様は大好き」

「……思想の話から聞こうかな。具体的にどの部分が『全賛成じゃない』の?」

「彼って理性100を求めてるじゃない?理性こそが人間のあるべき姿であり、他の動物と人間を分けるもの……みたいな。私は感覚と理性半々位を理想としているし、半々くらいで生きていた方が真理に近づけると思ってる。なんなら、人間は他の動物と変わりないという思想がある」

「なるほど。それじゃあ、生き様が好きって話は?」

「だってデカルトって……あらゆる人が真理に到達できるようにあの本を書いたんでしょ?旅をして、書斎に籠もって一日中瞑想して、全てを疑い、その結果『我思うゆえに我あり!』って思いついて、真理に到達する方法はこれだ!って確信して本にした」

「……うん、それが方法序説なんだろ?」

「………………本当に、すべての人が自分と同じように真理にたどり着けると思ったのかしら?絶対ムリでしょ」

「血も涙もない事言うな!!」

「デカルトがどれだけ魂を込めてあの本を書いたとしても……あれを読んだ人ってきっと、『ふーん、へぇー、こうやって真理にたどり着いたんだ。デカルトさん、やるなあ』。で終わるわよ。ちょっと憧れて真似してみたとしても、デカルトみたいに、本気で、人生かけてはできない」

「……そうだね。結局デカルト並みに考え抜かいと真理にはたどり着けないだろうしな。本を読みながら同じように実践しても、難しいのかもしれない」

「でも彼は、自分はこうやって真理に近づけたのだから、みんなもできるはずだ……!ってあの本を著した……狂人と大差ない異様な熱量で。…………好き」

火置ひおきさんってさ」

「……なに?」

「頭のおかしい人が好きなの?」

「……なんで?」

「この間ダンテの『神曲』の話をしたときもそうだったけど、何かに狂ってる人のことを肯定的に話す気がする」

「…………そう言われればそうなのかな?だからあなたのおかしな話にも一応ついて行けるのかもね」

「……僕の独房にやってきた時空の魔道士が君みたいな人でよかったよ。狂人耐性のない人だったらうまくやっていけなかっただろうからな」

「そうだね、感謝してね」

「はい……」

「あとこれだけは言いたいんだけど、私あなたの話について行ってはいるけど、多少引いてはいるからね?」

「………………そうだったんだ……」


※灰谷ヤミと火置ユウが図書室で『方法序説』を見つけた話はこちら

※ダンテの『神曲』について話し合っているショートストーリーはこちら

※火置ユウに『引かれている』、灰谷ヤミの神様についての話をまとめたエピソードはこちら

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