シェークスピアの「ハムレット」

連載中の小説「夏休みの夕闇」の主人公、灰谷ヤミ(死刑囚の男、22歳)と火置ユウ(魔法使いの女、21歳)が、好きな本について語り合うだけの会話ショートストーリー。

メイン小説のサブストーリーとしてお楽しみください。

※「夏休みの夕闇」本編のあらすじや目次はこちらからどうぞ。

ハムレット(新潮文庫)ウィリアム・シェイクスピア (著), 福田 恆存 (翻訳) 引用:Amazon

あなたに言われて、ハムレットを読んだよ」

「え、どうだった?」

「そうね、確かに『悲劇』だった。しかもこの物語最大の悲劇ってさ、主人公が普通にいいやつだって部分にあると思う」

「ものすごく雑…………っていうかシンプルな答えだね」

「例えば、『リア王』とか『オセロー』って……ある種、教訓めいたところがあるじゃない?簡単に甘言にだまされるような人物だから、嫉妬に狂うような人物だからこういうことになっちゃいました……みたいな」

「まあ……そういう考えもあるのかな。でもオセローなんかは、ある程度仕方ない気もするけど……。彼自身そこまで極悪人って感じでもないし、結構エグいハメられ方して騙されてるし」

「だとしても嫉妬に狂って人を殺すんだよ?どうして愛する妻を信じないのとは思ったけどなあ。

……で、ハムレットに戻るけど……、ハムレットはさ、私からしてみればそこまで欠点が目立たないように思えるの。誠実だし、正義感は強いし、思慮深い……悩みすぎてなかなか動けないっていうのは、欠点ではあるけど」

「彼がウジウジしてたことで起こった悲劇もあるから、『悩みすぎ』っていうのは確実に欠点だね」

「まあね。それにしてもハムレットは『自分の欲のために人を殺すような悪人』ではないじゃない?復讐だって、親の為だし……。結局親の亡霊の言う事を真に受けて、なんとかしようと思っちゃったから……あの悲劇が起こってしまった。

復讐を果たすために一人でなんとかしようと悩みに悩んで、生きるべきか死ぬべきかも悩んで……そして悲劇まっしぐらになった。

じゃあどうしたらよかったのかって言うと、もうちょっと適当に考えるとか、世の中とうまく折り合いをつけるとか、そういうことになっちゃう気がするんだよね。ちゃらんぽらんに、シンプルに生きていたら起こらなかった悲劇だよねって」

「彼の真面目さが引き起こした悲劇?……だとすると、この話の教訓は『真面目なだけじゃ生きていけない』」

「世の中は不条理だよねえ……その不条理に気づいちゃうことが、あの物語の悲劇なんだと……私は思ったな。結論『ちゃらんぽらんなやつは、悲劇を起こさない』」

「……やっぱり面白いね」

「うん、そうだね。やっぱりシェイクスピアってよくお話ができてるよね。色々考えさせてくれる」

「いや、そうじゃなくて……自分と違った意見を聞くってことが。やっぱり君に読んでもらって、感想を聞けてよかった。

もしかしたら僕は、ずっとこういうことがしたかったのかもしれない。誰かと一緒に本を読んで感想を言い合ったり、話の続きを一緒に考えたり」

「……そっか。大切なことに、死ぬ前に気づけてよかったね」

「うん、君のおかげだ。ありがとう」

「……どういたしまして」



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