二人の刑務所生活の合間の会話~2日目のどこかの会話編~

岩の上で寝れる

「あ、そういえば、火置ひおきさん」

「ん?」

「昨日言っていた話、教えてよ」

「うんと……ごめん、何だっけ?」

「『岩の上でも寝れる』って話。あれ、何だったの?」

「あーその話ね、OK。あれはね……私が『岩の国』に行った時の話だったわ……」

「岩の国?」

「そう、岩の国。その世界には、有機物がなかった。草木が一本も生えていなくて、無機物だけで構成された世界だった。もちろんそこに住んでいる人もみんな、無機物なの。『ゴーレム』って分かる?岩人形みたいな……ああいう感じの人々だけが生きる世界だったわ。なかなかおもしろかった」

「…………無機物なのに……生きてるの?どうやって生きてるの?」

「私も気になって聞いたのよ。そうしたら、精神のエネルギーのみで動いているんだって。つまり……魔法生物といったところかしら。
しかもね、無機物だから食事は摂らなくていいんだってさ。だけど精神力は休息でのみしか回復できないから、毎日の睡眠は必要なんだって」

「…………ちょっと……理解しがたい」

「ま、ともかくそういう国があったわけ。私は御存知の通り、時空のひずみを直しにその国に行ったんだけど……行ったら向こうの人達に『これが有機物の生命体か!』ってすごく驚かれて」

「…………」

「それこそ、向こうにも聞かれたの。『有機生命体はどうやって生きているんだ』って。
それで代謝の話……つまり食事をとったり排泄したりして生きるのよっていう話を説明して聞かせたり……。
実際に見せてって言われたから、もってきた携帯食を目の前で食べて見せてあげたの。咀嚼とか、飲み込む様子とか、お腹が膨らんでいく様とかをね……大勢からじーっと見られて変な気分だったわ……」

「よく食べられたね……食欲を無くしそうだよ」

「なんかその国の人ってみんな学者肌というか、研究者肌というか、知的好奇心旺盛な感じだったのよね。だから、嫌な気分ではなかったから……まぁ、見せてあげることにしたのよ。……でも困ったのがさ……排泄を見たがって」

「…………」

「すごく大変だったわよ。『排泄は他人に見せるものじゃないんだよ』って、必死に説得したの」

「……異文化交流だね……」

「でも改めて言われると一瞬困っちゃったの。たしかに、どうして見せてはいけないのかなって考えちゃって……。……ヤミはなんで排泄シーンを人に見せちゃいけないと思う?」

「……二つあると思う。一つは、排泄シーンは無防備だから……じゃないかな。『排泄は隠れて行うべき』というのは、太古からの遺伝子に刻まれた知恵だと思う」

「一瞬で答えられるのすごいなあ……確かに私も、結局はそれを説明した。排泄っていうのは身の危険を伴う行為だから、たとえ家族であろうと見せないものなんだよって、ちょっと大袈裟目に言って……。……で、もう一つは?」

「もう一つは、衛生的な意味あいだと思う。排泄物は感染症の原因にもなるわけだから、基本的には仲間内に持ち込まないものという暗黙のルールが生まれていった可能性が高い」

「なーるほど!そっちを説明すればよかったかなぁ。『家族にも見せないものなんだよ』っていうのが、なかなか理解してもらえなくて」

「……で、なんで『岩の上で寝れる』になったの?」

「あ、そうそう。えっとね、さっきも言った通りそこには無機物しかなくて、寝床も当然全部岩だったの。『フカフカのベッドはないんですか?』って聞いたけどないって言われて」

「うん」

「で、これが客人用の最高級の寝床だって案内されたのが、まるでツボ押しマットみたいな小さなボコボコの岩がいっぱいくっついた岩石のベッドだったの!」

「よく寝られたね……」

「それがね、最初はものすごく痛くて、頭もゴリゴリするし、もっと平らなやつに変えてもらおうかって悩んでたんだけど……でも横になっている内にだんだん気持ちよくなってきて……気づいたら熟睡してたの。しかも次の日の朝、体が驚くほど軽くなってたの!」

「睡眠のツボを押してたのかな?」

「わからない……でも、私はそれ以降岩の上で寝るのが何の苦もなくなった。この経験をさせてくれた岩の国の人たちに本当に感謝してるの」

「……ちなみにさ、岩の人たちはどうやって増えるの?」

「それね、見せてもらったの!神秘的だったよ。彼らの心臓に当たる部分には、綺麗な色に光る宝石のような『精神の核』があるんだけどね、その核は年月を重ねるごとに少しずつ大きくなっていくの。

それでね、1万年を超える年月を生きた個体の核には、核の周りに『むかご』みたいな粒ができ始めるんだけど……それがある時ポロリと落ちるのよ。で、地面に落ちた核のかけらの周りに岩のかけらが集まって……それで、小さな『岩人間』が誕生するの。なんだか、不思議な光景だった」

「……見てみたい」

「ふふ、連れて行って見せてあげたい。…………………………あ、でも!ごめん、やっぱダメ!!」

「…………なんでだよ」

「…………………………有機生命体はどうやって増えるんだって聞かれて……ぜひ見せてくれって言われて」

「…………」

「『残念ながらオスとメスの二人がいないと増えられないんだ』って言ったのになかなか引き下がらなくて……。あ、もちろん向こうの岩人間さん達には、やらしい気持ちは一切なかったと思うよ。単に『知りたい』っていう欲求だけだと思う」

「…………」

「どうしてもって粘られたから、『今度もう一人連れてきたらその時に見せるから!』って言ってきちゃったから……」

「…………」

「だから、私はもうあの国には戻れないし、戻ったとしても絶対に自分一人で戻らないと大変な目に遭うのよ……」

「………………」


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