死刑囚「灰谷ヤミ」の独房で、魔法について話をしている時空の魔女「火置ユウ」。『魔法使い』と混同されがちな言葉について議論していた二人のお話の続きが始まります。
なおふたりの出会いと冒険を描いた物語本編「夏休みの夕闇」はこちらからどうぞ。
※前回の魔法講義はこちら

魔法職について
「3つ目のテーマに行くね?魔法がある世界には、たくさんの『魔法職』がある。だから、魔法使いと似た意味の言葉がたくさんあるように思えることもある」
「魔法職って……言葉通りに考えるなら魔法を使う職業ってことだよね?」
「そう。魔法職の大分類にはこんな例がある。世界によって違うこともあるけど」
- 魔道士(呪術士、妖術士etc)
- 治癒士
- 魔法教師
- 魔法学者
- 魔法技師
- 奇術師・道化師・魔法詩人
魔道士
「魔道士はさっきも出てきたね」
「そうね、よく言われる魔道士っていうのは一番世間一般が思う『魔法使い』のイメージに近いかな。魔法を使うこと、そのものを仕事とする人々のことを言う」
「魔法を使うことそのものを仕事とする……。それは……、魔法で火を起こして町の役に立つとか、魔法で戦って城を守るとか、そういうこと?」
「どちらかというと後者ね。魔法で戦う人、って言う方がわかりやすいか。だから、偉い人や旅人の護衛とか、傭兵とか、そういった立場で日銭を稼ぐ人が多い」
「実力主義っぽい職種だな」
「鋭いね。強さが全ての業界だから強ければ強いほど有名になれるし、有名な魔道士は世界中から引く手あまたなの」
「君は『魔道士』なんだよね?」
「そうね、私はどちらかというと『魔道士』。でもこの後説明する『治癒士』でもあるかな……治癒魔法はあまり得意ではないんだけどね」
「へえ。ちなみに、魔道士・呪術士・妖術士とかの違いは、さっき教えてもらった『魔法の呼び方の違い』に関連してるってことかな?」
「そうそう!だから、魔法の言い方の数だけ『魔道士』系の言い方があるってことね」
治癒士
「これは名前の通りって感じ?魔法で傷を癒やすとか、毒を治すとか」
「うん。世界によっては『聖職者』がこの役割を担うことも多い。でも全ての世界でそうとは限らないから、治癒魔法を専門とする職種の人を『治癒士』と呼ぶ。あと『魔法薬師』なんかもここに含まれるかな」
「君は『治癒士』でもあるんだ?」
「そうね、私は治癒士でもある。でも治癒魔法より、自然魔法の方が得意ではある」
「自然魔法……火・風・水みたいな?」
「そうね、魔法の王道であり花形であり、かつ全ての基本。魔道士は自然魔法の専門家。治癒魔法は、繊細なのよね……マメで集中力を維持できるタイプの方が、多分向いてる」
「…………君は確かに、向いてはいなさそうだね」
「………………」
魔法教師
「これは文字通り?魔法を教える人のこと?」
「そうね、文字通り。学校の先生と同じく、初等・中等・高等などがある。人間教育も兼ねているから、普通の教師と求められるものは一緒ね」
「君も魔法学校は通ったの?」
「いや、私は通っていない。私の魔法は全部、実践か仲間に教えてもらうかで習得したの」
「……本当に自由人なんだな」
「旅して生きるしかなかったから、同じ学校に何年も通うのは難しかったのよ。時空の歪みを直すために、どんどん世界を渡り歩かなくてはいけないし」
「魔法学校に通いたいとは思わなかったの?」
「すごく思ったよ!なんなら小さい頃は、たまに潜入してこっそり授業を受けたこともあったのよ。
でも私はね、恵まれていたの。一緒に旅する仲間に、魔法の先生になってくれる人がいたから。私の魔法の基礎は主に、旅の仲間から教えてもらった」
「……そうか……仲間がいたんだね。一人旅する前のこと?」
「うん。小さい頃は旅の一団に入れてもらって、歪み修復のために活動してたの。そのうち完全に一人で世界を回るようになったんだ」
魔法学者
「魔法学者は、魔法学の専門家。魔法を使って何かするよりも、魔法の仕組みを解明したり、新しい魔法を研究したりすることに特化した職種」
「科学者の魔法版って感じかな?」
「そう、その通り!前回『魔法は感性優位の技』だとは言ったけど、魔法学者はガッチガチの理論派も多い」
「物理化学とは……違うんだよね?」
「違うわね。前にチラッと説明したけど、物理化学は『物質界』の現象のルールでしょ?魔法学は『精神界』の現象のルール。精神界は物理界よりも厳密なルールで動いているわけではないけれど……それでも一定の法則や公式みたいなものはあって、それを学術的に解明するのが彼らの仕事」
「君は魔法書を書いているよね。それは魔法学の専門書にあたるのか?」
「私の魔法書は感覚的に分かることを重視して書いてるから、魔法学というジャンルではないと思う。魔法使いは感性派が多いから、理論的に書きすぎても実践的じゃないのよ……特に『魔道士』にとっては。こういうイメージで、こういうことを思って、こういう感覚を呼び覚まして……みたいなことを言語化して記すようにしているの」
「魔法も奥が深いんだね」
「すごく奥が深いよ!魔法のことなら無限に語れる」
「ははっ、楽しそうで何よりだ」
魔法技師
「魔法技師というのは、魔法を生活のために使うことに特化した業種。例えば私が持っている『魔法道具』なんかは、魔法技師が作ったもの。他にも都市機構を作ることに特化した魔法技師とか、農作業を効率化させるために働く魔法技師とか、乗り物を作る魔法技師とか……色々な職種があるの」
「生活を豊かにするための魔法使い、ってところか。魔法を生活に応用できたら、世の中は便利になるだろうな。エアコン代だって浮く気がする」
「ふふ、そうね。夏は冷風を魔法で起こして、冬は魔法で暖炉に火を着ければいいわけだから!」
「その話を聞く限りでは……魔法使いの大部分は『魔法技師』として働く人が多いんじゃないか?平和な世界では特に、魔道士よりも断然需要がありそうだ」
「まさにそうなのよ!魔道士は不安定な世の中でこそ活躍する職種だから、平和な世界では本当に一握りしかなれないの。……必要ともされないしね。
一方魔法技師は、魔法の世界で安定して大活躍!魔法の力を使って動いている世界って、今までの常識が通用しなくてなかなかおもしろいよ」
「……僕も見てみたかったな、そういう世界」
「…………釈放されたら連れて行ってあげるよ?今からでも無罪を勝ち取れるように、いい弁護士を探してきてあげようか?そのためにはまず、私がこの独房から出る方法を見つける必要があるけどね」
「僕が殺人を犯したのは事実だから、もう無罪にはならないさ。必要ないよ」
「…………そう」
奇術師・道化師・魔法詩人
「この3つは、一緒くたにしていいものなのか?全部違うような気もするけど」
「職種としては違うけど、共通しているのは『エンターテイナー魔法使い』ってことね」
「なるほどな。見せ方次第では、この世界でも活躍できそうだ」
「そうね、テレビに引っ張りだこ……かも。でもこれはなかなか、今までの業種とは違った闇のある世界でもある。罪人や戦争捕虜が道化師や奇術師として成り上がったり、村八分になった魔法使いが詩人として諸国遊歴して生きていたりね」
「普通には生きていけない魔法使いが、この道を選ぶ……または選ばざるを得ない、ということもあるかもな」
「そう、ものすごい野心を秘めた人とか、その熱量によって普通では考えられないすごい魔法を使える人とかもいて……。闇深くはあるけど、興味深くもある業界、そんなとこなのよね。
私、過去にものすごい道化師に会ったことがあるわ。……あれはなかなか危険な経験だった」
「なんか、怖いな。君って危ないことに首を突っ込みたがりそうだよね?」
「ちょっと……どうしてそういう評価になるわけ……?そんなことないって」
「絶対にそう思う。闇の魔法使いに話を聞きに行って、捕まって……とかあるだろ?どう?」
「…………」
「あるんだ……」
「…………今度はその話もしてあげるよ!」
「はぁ……」
「なんでため息!?喜んでよ!」
まとめ
「今回はいろんな言葉が出てきたから、わかりやすくなるように表にしてみたよ!」
「お、いいね。見せて」
魔法職の職種 | 説明 | 補足 |
---|---|---|
魔道士(呪術士/妖術士など) | 魔法で戦う | ・実力主義な業界 ・感性タイプが向いてる |
治癒士 | 魔法で治癒する | ・マメで繊細な人が向いてる ・聖職者がなることも多い |
魔法教師 | 魔法を教える | ・初等、中等、高等がある ・人間教育も兼ねる |
魔法学者 | 魔法学を研究する | ・理論タイプが向いてる ・比較的男性が多い |
魔法技師 | 魔法で生活を豊かにする | ・社会性のある人が向いてる ・組合に属することが多い |
奇術師/道化師/魔法詩人 | 魔法エンターテイナー | ・感性と機転しだい ・ものすごい力を持った魔法使いもいる |
「どうかな!?」
「補足がなかなかおもしろい」
「でしょ!」
最後に余談~「魔導師」と「賢者」
「そういえば……『魔導師』と『賢者』は?」
「ああ、その二つはぶっちぎりで定義が曖昧な言葉なの」
「『賢者』は何となくわかるかもな。そもそも魔法使いというより、偉大な知恵を持つ人……みたいな意味だろ?」
「そう。必ずしも賢者イコール魔法使いってわけじゃない。でも『魔法使い』がいる世界においては、一定の名を上げていて、世のために活躍した実績があって、実力のある魔法使いを『賢者』と呼ぶことは多いかな。私も『賢者様』なんて呼ばれることがあるよ」
「……なんかかっこいいな」
「ふふふ」
「じゃあ、『魔導師』は?」
「魔導師は、一番曖昧な言葉。『魔道師(士)』とほぼ同じ意味で使われることもあるけど、もともとの意味は『魔』の『導師』から来ているはず。つまり……魔法を得意とする高僧、って感じかな」
「『魔導』の『師』ではないんだ」
「その意味合いで使われることもある。でも『魔導』って言葉は、時空単位で見るとそこまで一般的ではないかな」
「なるほど、勉強になったよ」
「いいえ、どういたしまして!」
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