死刑囚「灰谷ヤミ」と時空の魔女の「火置ユウ」は、同じ独房の一室で一緒に暮らしています。なぜって、ユウは時空の穴を抜けてここに来てしまい、外に出られなくなってしまったからです。
何の娯楽もない独房で、二人は魔法について会話をしています。前回は「魔法使いと魔女の違い」について話していましたが、今回は……?
なお物語本編「夏休みの夕闇」はこちらから。
※前回の魔法講義はこちら

男と女はどちらが魔法使いに向いているか
「前回の続きを話してよ」
「え~ちょっとは休憩させてよ……」
「……さっきまで休憩してたじゃないか」
「さっきは魔法書の続きの構成を考えてたのよ。脳内は大忙しだったの。私、精神が疲れるとすぐに眠たくなっちゃうんだから。……実は『眠くなる』っていうのも魔法の力と関係がある話なんだけど」
「聞きたいことがありすぎて困るな……」
「まあ、いいか。火置先生が教えてしんぜよう。今日はえっと、『魔法の適正について』」
「男と女、どっちが魔法使いに向いているかみたいな話だよね?」
「そうね。結論から言うとずばり『ケースによる』」
「結論になってないな」
「理由もちゃんとある。魔法は『筋肉量』『感受性』によって適正値が上下する。つまり性別と魔法に直接的な関係はないけど、『筋肉が少なくて』『感受性が高い』方が魔法には向いている。となると、女性の方が魔法を得意としやすい傾向があるかな……ってこと。だから、『ケースによる』」
「なるほどね。生物学的な特徴として女性的な方が魔法との相性がいいってことか。でも体の作りや脳の構造には大きな個人差があるから……それこそ筋肉が少なくて感受性豊かな男もたくさんいるから……性別と魔法が紐づいているわけではないって意味か」
「そうそう。しかも魔法を使いこなすって意味では、一定の理論も必要だからね。理論タイプの魔法使いも、もちろん大勢いる」
「ちなみに、どうして筋肉が多いと魔法がダメなの?」
「ここはまた話すとすごく深くなっちゃうから表面だけ教えると……魔法に必要な要素やエネルギーは、筋肉が物理的な障壁になっちゃうの。だから筋肉量がありすぎると、魔法の力がうまく体の中を巡ってくれなくなる。魔法使いに非力な人が多いのは、決して偶然ではない。あえてそうしているまである」
「ムキムキの魔法使いって……いるの?」
「いることはいるよ!でもそういう人は、魔法と武術や剣術を合わせて使っているかな。魔法力単体で見ると、魔法特化の人には負けるしね」
「感受性が高い方がいいっていうのは?」
「魔法の要素は『感受性』に呼応する。魔法は感性優位の世界つまり『精神界』の法則に沿った現象なの」
「新しい単語が出てきた……『精神界』って何?」
「これはね……話が長くなるからまた後日にしたい。ただ簡単に言うと、全ての世界は『物質界』と『精神界』の重なりで成り立っていて、物質界は物理化学の世界。精神界は感性とか感覚とか、あいまいなものの世界のこと。今はそういうイメージで捉えておいてもらえればいい」
「……兎にも角にも、魔法は『感覚的なもの』であり、感受性の豊かさがないと使えないってことだね」
「そうそう、そこまで理解できれば十分!」
「じゃあ、今日は僕がまとめる」
「お願いしますね」
- 魔法の適性と性別に直接的な関係はない
- 魔法の適正と関係が深いのは「筋肉量の少なさ」と「感受性の高さ」
- 筋肉が少ないほうがいい理由は、魔法の力は筋肉に阻害されてしまうから
- 感受性が高いほうがいい理由は、魔法そのものが感覚的なものだから
「素晴らしい!ヤミも魔法使いになりなよ!ヤミは読書好きでしょ?読書好きな人は想像力が豊かだから、魔法適性ある人が多いし」
「えっ、そんな気軽になれるものなの」
「…………ここにいる限り無理かな。別の世界にいかないと」
「じゃあ、一生無理だね。残念」
「なんでそんなに軽いのかねぇ……ちょっとくらい『死にたくないよー!』とか思わないの?」
「思わないよ。むしろ死ぬ前にこんなに楽しい思いをさせてもらえてることに幸せを感じてる」
「…………はぁ~」
「なに」
「……なんでもない。私魔法書執筆の続きしたいから、また後でね」
「…………」
※魔法講義シリーズはこちら
※「夏休みの夕闇~刑務所編~」物語本編はこちらから
