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僕は君に入った状態で君を抱きしめて、じっとしていた。どれだけの時間、ただくっついていただろう。
火置さんが僕の頭をなでてくれて、僕はその優しさに気持ちよくなって、君の温かさを感じていたんだ。
何の不安もない、穏やかな時間。一生これが続けばいい。そう、僕は24時間これでいいんだから。
そう……ずっとこれでいい………………ずっと……………………だってそのほうが…………
……そのほうが?…………ああ、そうか…………
僕は、気づいてしまった。どうして君の中に入りたくなるのか。なぜ安心すればするほど、君とくっつきたくなるのか。
「火置さん?」
「……ん?」
「なんで突拍子もなく君に入りたくなるのかがわかった」
「え、なんでだった?」
「……やっぱり、僕は不安なんだ」
「あれ……?どうして?安心できてなかったの?何が不安?」
僕を中に収めたまま優しく尋ねてくれる君。僕を包み込んでくれる君。
離れていると、別の人間。くっついていたって、体が一つになったって、それでもやっぱり、君は……別の人間。
「……こうしてぴったりと一つになっていれば、君はどこへもいかない。……どこへも行けない」
「…………ヤミ……」
「君が僕を安心させてくれればくれるほど、そんな君がどこかにいってしまったらどうしようと思って、僕は不安になる。そういうことだった」
「ヤミ、私どこへもいかないよ」
「…………」
「安心して、どこへもいかないよ。本当だよ。信じて」
さっきまでふわふわした顔をしていた君が、真剣な表情になる。まっすぐな、汚れがひとつもない、慈愛を溜めた瞳で僕を見る。
きっとこれから僕が何を言っても、君は『どこへもいかない』『そばにいる』『あんしんして』って言ってくれるだろう。
僕のために。僕の不安を思って。
………………………………口ではなんとでも言えるけどな。
いくら君が真心からその言葉を発していたって、それでも残念ながら『確実』ではない。いつまでああやって、一緒に空を眺めて、僕に似ている雲を探してくれるかなんて、誰にもわからない。僕の隣で、僕の肩に頭を預けて、本を読んでいてくれるかなんてわからない。
僕の隣からいなくならなかった人なんて、今まで誰もいない。君がその『例外』ではないなんて、そう簡単には思えない。この世に『絶対』はない。
「どこへもいかないよ」
もう一度、君は言う。優しい声で。僕にまっすぐ伝えようとする。僕の脳に流れ込む、無色透明で神聖な液体。僕の脳をひたして浄化しようとする。
……でも、僕の脳のそこかしこには、黒く汚れたシミがついている。頑固な汚れ。こすったって漂白したってもう落とすことができない。君の美しい透明な液体でも、僕の穢れは消せないんだ。
君に次の言葉を言わせないように、僕は一度動く。君との結合部は濡れている。『僕を安心させたい』という純粋な意思に反して、君の体は性的な快感を求めている。僕がたった一度動いただけで、君の息の色合いは変わってしまう。
僕は君の中心を触る。
ついさっきまで、普通に会話をしていたはずなのに、とても真っ直ぐな瞳をしていたのに、君の表情が崩れる。気持ちよさに歪んだ顔になる。
「あ……ヤ、ミ…………っあ」
きっと君はちょっと不満だろう。せっかく僕の不安を和らげようと『どこにもいかないよ』って何度も言っているのに。僕はその言葉を受け止めずに、君の体をいじくっているんだから。
……でも、君もひどいと思う。だって、甘い言葉をかけて仮初の安心を与えようとするなんて、詐欺師のそれだ。
『絶対にいなくならない』なんて証明できないはずなのに、証明できないことを言って僕を期待させるのは、ずるい。
もうこれ以上、君に喋らせたくない。気持ちよくさせて、喋らせないようにする。
こんなにも深い愛情で僕を包んでくれる君も、僕の指が君の中心を撫でるとその快感に反応して『ほしがって』しまう。
僕はそんな自分に興奮する。無垢な君を、指一本で、快楽の虜にしている自分に。
たまにゆるりと奥まで突きながら、それでも指での刺激をやめないと、君の中はどんどん濡れてくる。頭をいやいやするように振って、その気持ちよさに耐えようとする。息がおもしろいくらいハアハアして、止まらなくなる。
君を一度イカせてからじゃないと、僕は出したくない。僕は絶対に彼女にオーガズムを与えるようにしているんだ。ただ申し訳ないけど『君を気持ちよくさせたい』っていう純粋な思いだけで毎回こんなに丁寧にしているわけじゃない。
僕がなんで必ず君を絶頂させているか?……それは『僕以外とセックスしたいなんて君に一生思わせないように』、必ず気持ちよくさせているんだよ。
心の永遠は証明できなくとも、体は絶対に僕を求めるようにしておきたい。しかも……それは、僕次第。僕の頑張りで、君の体を変えられる。僕が君に気持ちよさを与え続ければ、僕に依存させられる。
だってほら、今だって、もう喋れなくなってるじゃないか……。さっきまであんなに、聖母様みたいな顔をしていたのに……。
「あ、ああ、あ、あっ、や、ヤミ、ヤミヤミ、だ、めっんっっ!」
「中がすごいヒクヒクしてる。そろそろイきそうだね」
「やっ、あっ、い、いく、いっちゃ、あ」
「『いっちゃう』?そうだろうね。僕もすごく気持ちいいよ?キュウキュウしてるもん。イッた君の中で早く動きたい」
「ダメ、あっ!っっっっんっんっ!!」
僕にぎゅーっとしがみついて、ビクビクと体を震わせて、君は絶頂した。僕は満足する。きっと君は深層心理で『僕とくっつくと絶対に気持ちよくなれる』って思ってくれてる。今のところずっとそうしてきたから、次だってそうだろうって、頭の片隅で思ってくれているはずだ。
僕はじっくりと、達した君の中を堪能する。
弾けそうに膨らんだ内部。ぷりぷりと充血した粘膜は、僕のそれをキュッと包みこむ。こすりつけるように動くと、僕を優しくしごいてくれる。
「火置さん……気持ちいい……」
「ああ、ああ、ああ……」
君との永遠がほしい
君はいついなくなるかわからない
こんなに優しい君だって、いつかはいなくなってしまうかも
でも抱き合っている限り君はいなくならない
だから抱き合いたい。ずっとくっついていたい。離したくない。僕のもの。
もうまともに喋れなくなってしまった君。でも僕はまだもう少しかかるよ?ちゃんとゆっくり、達した君を味わいたいんだ。
気持ち良すぎておかしくなっちゃうって、もうヤミしかいらないって、そう思ってくれるといいな。
火置さん火置さん、君が好き。大好きなんだ。絶対に離さないよ。君とくっついている限り、僕はずっとずっと安心できるんだから。