※「夏休みの夕闇~刑務所編~」本編の裏側
※前回の「シャワールームでしたこと」はこちら
この日僕は妙に興奮していていた。目を瞑らなくたって、目の前に君を思い描くことができた。アドレナリンが、脳に満ちていくのを感じる。全身が発汗する。自分の局部が、固く膨張するのが分かる。
今日のシャワーの時間は、遠慮せずに火置さんを頭の中で犯そう。僕はそう決める。
いつもは遠慮があった。僕なんかに抱かれたくないかなと思うから、僕じゃない誰かに抱かれている火置さんを想像したりした。
そうすると、幸せそうで気持ちよさそうな彼女の姿を頭に浮かべることができた。誰かに抱かれている彼女は、自分から脚を広げていて、可愛くていやらしかった。
僕に抱かれても喜んでくれないだろうなと思うから、悲しそうに僕に抱かれている火置さんを想像したこともあった。
『やめて、ヤミ……』。そんなことを言いながら、憐れむような目で僕を見て静かに抱かれる彼女を。
……これは、僕自身も悲しくなった。でも、僕が彼女に入って腰を振っている想像だったから、ちゃんと気持ちよくはなれた。
でも今日は……今日、僕はなぜだかとても興奮している。僕自身が君を抱く想像をしたいし、悲しいとか嫌がられるだろうなとか遠慮したくない。ただただ君で性的な欲求を満たしたい。
リアルな想像じゃないと、僕は興奮しきれない。こんなのはありえないだろって思うと、入り込めないんだよ。
『僕と火置さんが合意の上で抱き合うこと』は、原則としてリアルじゃない。ありえないシチュエーションなんだ。だから、そうじゃない場面を想像するしかない。でないと、ちゃんと達することができないから。
……そのために今日は『僕によって蹂躙されているリアルな火置さん』を考える。もし今目の前に彼女がいたら本当にこうなるだろうというような、そういう場面を考えたい。
シャワーを全開にして、水がタイルを打つ音で自分の声をかき消すようにして、僕は目の前に君を描写していく。
細部まで、まつげの先や頬の産毛、腕に見つけたほくろまで、細かく思い出して脳内に像を結ぶ。
服の中は、わからない。見たことがないから、ゼロから想像するしかない。
でも、見えている部分の君の肌は白い。胸だって腹だって尻だって、同じように白いはずだ。胸はそこまで大きくはないけれど、バランスよく身体に備わっていると思う。……苦しいよ、本物が見たい。
僕は出来上がった想像上の火置さんの裸を呼び起こして、彼女を犯す。
君がシャワーを浴びている、シャワールームにいきなり僕が入っていく。君はきっと、驚いて僕を見る。一瞬何が起こっているのか理解できないかもしれない。驚いて固まる君を浴室の壁に押さえつけて、僕は君にキスをする。舌を入れて口内を犯すキスを。君は苦しそうにうめく。シャワーの水が二人に勢いよくかかる。溺れそう。
現実の僕はまだ自分のモノを触らない。ちゃんと、『彼女に入る時に』触る。そうじゃないと、冷めてしまう。
君は僕を睨んで「何なの?」って言うだろう。僕は「君を抱きに来たよ」って言う。君は僕を拒む。「いいよ」という君は想像できない。説得できないなら、無理やりするしかない。
嫌がる君を後ろ向きにさせて、後ろから入る。柔らかくてあったかい。シャワーに温められた背中がホカホカしている。
想像の中で君に入るのと同時に、僕は自分のモノを握る。君の中を思って、柔らかく、ふわりと、シャワーの熱で温めた濡れた手のひらで。
「っあ……」
自分の声なんて聞きたくないけど、感じている自分の声が聞こえると少しだけ興奮する。『火置さんを無理やりする想像をして気持ちよくなってる自分』に興奮する。
最悪だね。最悪で、嫌らしい。どうして、後ろめたい気持ちは興奮を増幅させるんだろう。いけないのに、いけないことをしているのに、いけないことをしているからこそ気持ちいい。最悪な男に想像されている火置さんを哀れに思う。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、あっ」
シャワーが床を打つ音の隙間から聞こえる、僕の声と息。目を閉じろ。目を瞑って彼女の声も描写しろ。僕の声に重なって、彼女の声が聞こえるように想像しろ。頭を働かせろ。
「あっ、あっ、あっ、やめ、やめて、ヤミっ、あっ!」
「はぁ、はぁ、火置さん、すごい、キモチイイ、よっ、あっ」
「や、ぬいて、ぬいてよ、やだ、こんなの、おかしい、よ……!」
おかしいって言いながら、君は中を濡らしている。……自分に都合のいい妄想で、僕は僕を気持ちよくする。僕のために濡らす君を思って……。
「すごい、濡れてる、なんで?気持ちいい?もっと、してあげるよ、あっ、ああっ」
「あ、あ、あ、だめ、やだ、やだよ、ヤミ……んっ!」
「なんで、嫌がるんだよ……?他の男のときは、『もっと』って言ってたのに……!」
「ヤミは、友達、なのに!友達だと、思って、たのに……!」
なんでそんなこと言うんだよ。せっかく悲しくならないような想像をしようと思ってたのに、ただただ僕に犯されるだけの火置さんを考えたかったのに、そんな余計なことを言うなんて。ひどい気分だ。
自分で想像したことなのに、僕は想像の中の火置さんに当たる。そんなこと、言うな!君が悪いだろ!死が近い男のところに、わざわざ来たんだから……!わざわざ仲良くしに来たんだからな……!
想像の僕は彼女の尻に向かって遠慮なく体をぶつけている。現実の僕の手の動きも早くなる。脚を震わせながら壁にもたれる火置さんを思う。彼女の体をかかえて、僕は自分のモノを出し入れする。君で気持ちよくなりたい、君で、君を使って……。
「あっあっあっ、ああ、あっっ……!う……っあ……」
びゅる、びゅる、びゅる……と、僕の先端から白濁した液体が出てくる。何かに絡みつこうとする糸のように、不思議な軌道を描いて。
その液体は、浴室の壁にぶつかって、シャワーの水と混ざって、排水口に消えていった。