「火置さん、最近我慢が足りないよ」
「えっ、何よそれ!」
「イクのが早すぎる。もっとなんとかして欲しい」
「!?!?!?」
「僕、できる限り最後は一緒にイキたいのに。ここ最近ずっとできてないよ?なんで??」
「なんでって……自分で考えてよ!だって、ヤミのせいじゃない」
「…………」
酷いな。『ヤミのせいじゃない』って……君のせいでもあるじゃないか。我慢の足りない君のせい。だって、気持ちよくても『我慢』すればいいだけの話なんだから。
それとも、『私に我慢してほしいなら、気持ちよくならないようにもっと適当にやれ』ってこと?『気持ちいいけど我慢する』から、その先がもっと気持ちよくなるのに。なんなら僕はいつだって、そうしてるのに。
セックスに対する僕と君の考えはとても似通っていると思っていたけど、僕の気のせいだったのかな。なんだかそんなふうに思えてきてしまう。
「そうだ、それじゃあ今日は限界まで我慢してみようか。『我慢ごっこ』」
「…………出たよ……あなたが考える『〇〇ごっこ』……。いつもろくなもんじゃない……」
「結局楽しんでるくせに文句言わないで。だいたい火置さんだって、前に『ドーパミンごっこ』とかいう訳のわからない企画を思いついてたじゃないか」
「…………」
「人のこと言えないよ。似た者同士だ」
「……………………」
僕たちは服を脱ぐ。我慢ごっこの始まりだ。
さあ、どうしようか。『我慢』させなきゃいけないから、気持ちよくさせることは大前提。気持ちよくないなら、そもそも我慢しなくていいもんな?もちろん、セックスで気持ちよくさせないなんて選択肢はないけど……。
僕は、君の弱い部分を重点的に攻めていく。知っている限りの君の弱点。まず、耳。
耳元で「触るね」って言ってから、反対側の耳に指を優しく入れる。彼女はゾワッと震えて、少し肩を上げる。控え目な吐息が漏れる。
次は、唇。両手で頬を包んでから、指で唇を触っていく。彼女の瞳がうるんで、泳いで、キュッと閉じられる。閉じた瞼の上にキスをしてから、彼女の唇を舐める。舐めるとびっくりして目を開けるから、瞳を見つめながらもう一回キス。今度は舌を入れる。
その次は、キスをしながら胸を触る。優しく乳房全体をなでてから、指先で乳首を刺激する。ふんわりとつまんだり、ちょんちょんと押したりすると、そのたびにピクピク動いて楽しい。何度でもやりたくなってしまう。
ここまでしたら、多分彼女はもう濡れている。触る前に聞く。
「濡れてる?」
「……言いたくない」
「濡れてるんだ」
そう言って僕は、彼女の割れ目に指を入れる。……わ、すごい濡れてる……。確かめるだけのつもりがついつい嬉しくなって、何度か膨らんだ芽をこする。
「っ、ちょっと、ま、って!」
「あ、ごめん……つい…………」
急ぎすぎたことに反省しつつ、火置さんを見る。すると彼女は少し俯いていた。……どうした?
「…………我慢、そんなに足りないかな、私……」
さっきまでツンツンしてたくせに…………何だよいきなりしおらしくなって、わざとか??僕の脳が一瞬でブワッと曇る。
「我慢って……どうやってすればいいの……?」
たまに彼女の色々な行動に対して、狙ってやってるんじゃないかって思うときがある。でもプライドの高い彼女の性格を考えると、わざと弱いふりをするなんて神様が天国から地獄に引っ越すくらいありえないことだ。
……たまに見せてくれるこんな態度にドキドキ出来てしまうんだから、わざとだろうがそうじゃなかろうが、どっちでもいいか。楽しませてもらってるんだし。
それに『我慢、どうやってするの?』って……。それは『どれだけ努力しても我慢できないほど気持ちいいんだよ』とか『我慢したいけど気持ちよくてどうしてもできないんだよ』っていうことだもんな?さっきは僕のせいにされてちょっとムッとしたんだけど……嬉しすぎてもう入りたい。男って馬鹿だ。
「…………前教えたじゃないか。青い空とか白い雲とか考えるんだよ」
「だから、それは難しいって言ったのに……」
「だからこそ練習するんだよ。脚広げて?」
「…………」
もう濡れている入口を、しっかりと見せてもらう。……テラテラ光ってる。中心の芽も、大きくなってきてる。
僕がたくさん触って、ピクピクしながら必死に我慢してる彼女を想像すると……ちょっと僕もまずい。でもそう、それも『我慢』する。多分僕のほうが、いろいろな面で我慢は得意だと思う。
「触るよ?」
「ん……」
優しく芽の先端にふれる。それだけで彼女は一瞬、身体を震わせる。でもいつもより動きが控え目だ。多分本人なりに我慢をしているんだろう。
……我慢してって言ったのは僕なのに、なんだか悔しくなる。もっと感じさせたい。
「今、何考えてるの?」目を閉じている彼女に尋ねる。
「ん、青い空と、白い雲だよ……」
「……本当にその通りにしてるんだ」
「ヤミが言ったんじゃない!」目をパッと開いて火置さんが言う。
「いや、いいんだよ。それで我慢できるならそれでいいんだ」
「もう、なによ……、っん、あ、あっ!」
「あれ、いきなりなんで……?」
「ヤミが、見えると、だめ!やっぱり目を瞑らないと……」
「…………」
つまり周囲の感覚を遮断して集中していれば、我慢できるってことか。
……じゃあ、僕の『感じさせる技術』が高いか、彼女の『集中力』が高いか、勝負。よーい、スタート。
彼女は目を瞑っている。多分頭の中に、澄んだ青空を映し出している。僕は、そんな彼女を観察しながら、彼女の中心をクルクルと撫でる。
最初は何も言わずに、クルクルと。彼女の集中力を削ぐために、たまにリズムを変えて。ちょんちょんと押したり、逆向きにクルクルしたりスピードを変えたり。
たまに彼女の腹に力が入るのが分かる。ヒュッっと息を吐いたり、ふわふわのクリトリスがコリッと固くなったりするから。でも少し経つと、穏やかな吐息に戻っていった。
……結構手強い相手だ。
そうだな、次の作戦は……。そう、声で惑わす。
「頑張って我慢してるんだ」
「…………」
「クリトリス、ふわふわ。力入れないようにしてるの?お腹に力入れたほうが、コリコリになって気持ちよくなるって言ってたもんな。ふわふわにしてたほうが、我慢できそう?」
「っ…………」
あ、一瞬コリッとした。……わかりやすいな……。
「火置さん……お腹に力入れた状態で我慢してよ。気持ちいいのを我慢しないと意味なくない?企画倒れだ。気持ちよくないなら、それは我慢とは言わない」
「………………ちょっと……うるさいよ……!」火置さんは瞼を上げて、僕をキッと睨んだ。
「…………喋りすぎた?」
「うん、喋りすぎ」
「…………ほら、僕は会話に飢えてるから……僕といる以上は我慢してほしい……」
「出た!また我慢!そんなに我慢しなきゃいけない!?」
「……楽しんでるくせに……」
僕達の我慢ごっこは、まだ続く。
(続く)
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