今・後編

※前回はこちら

彼女は少しだけ身を捩ったり、苦しそうに息を吐いたりしていたけど、数分もたてば落ち着いた呼吸に戻っていった。中が優しく柔らかくなり、彼女の安心が伝わってくる。

……すごいな、中の様子って、火置さんの気持ちと連動しているのかな。言葉に出さなくても入っているだけでそれがわかるなんて、すごい。やっぱり僕はセックスが好き

だって、すごく特別なんだもん。僕は『ノンバーバルコミュニケーション』をあまり重視していなかったんだけど、セックスだけは別だ。目は口ほどに物を言う以上に『身体は口ほどに物を言う』気がする。

このコミュニケーションは誰にも見せない分、発されるシグナルの価値は高い。ひとつひとつのメッセージが、深く重く、尊く思える。

火置さんは目をつぶっている。僕の背中をさらさらとなでてくれている。顔の筋肉を緩めた、優しい顔で。

君の優しい顔を間近で見ると、僕は一種の走馬灯みたいな感覚に陥ることがある。アルバムのページが風でめくられていくように、自分の人生を一からパラパラパラっと振り返っていって、気づいたら目の前に火置さんがいる……みたいな感じに。

「火置さん、落ち着いた?」

「ん、落ち着いた……。ヤミも?落ち着いた?」

「うん、落ち着いた。すごく……安心する」

「そうだね、安心する。とっても優しい気持ち」

「優しい顔してた」

「そうかな……でも、ヤミもだよ」

「そうかな」

「うん」

動かないでくっついているだけだと、こんなに優しい気持ちになれる。すごいことだと思わないか?

セックスは性的な欲求を満たす手段ではあるけれど、多分それは『動く』場合に限られると思う。動かないセックスもあると思うよ?動かないほど長くできるんだから、本当に楽しみたいなら動かないべきだ。

「ね、そろそろ上脱いで」火置さんが言う。

「……脱いでほしいの?僕、今日はこのままでしようかなと思ってたんだけど」

「どうして?肌に触りたいのに……」

「上着が君を閉じ込めてるみたいで……いいなって思ったんだ」

「なあに、それ。変なの……」

クスクスと笑う火置さん。そして笑った後、少し切ない顔をしてからこう言った。

「じゃあせめて中のTシャツだけでも脱いで欲しい……肌に触りたいの。脱いだ後カーディガン羽織ってもいいから……」

「わかった。少し、体起こすね」

僕は両腕をついて体を起こす。君の顔が少しゆがむ。……違うところに当たった?やっぱりセックスは『動く』と性的になる。君の中がウネっと震える。

僕は君につながったまま体を立ち上げて座り、服を脱いでいく。君の視線を感じる。頬を赤く染めて、どうしたの?脱いでいるところをじーっと見るなんて、エッチだな。

……空気が変わるのを感じる。ほんの数十秒前の空気と、どうしてこんなに変わってしまうんだろう?セックスは劇的だ。さっきまでの僕達と、今からの僕達は、全く別のものになっている。

Tシャツを脱ぎ終えた僕は、君を上から見下ろす。今僕達の接する面積は、局部と太ももの一部だけ。彼女の体は、僕に向かって明け渡されている。いくらでも触っていいし、いくらでも好きなようにしていいと、その白い体は僕に語りかける。

カーディガンを羽織ってもいいって言われたけど……もういいか、動きづらそうだし。

「火置さん、触るね」

「え……ん、あ、やっ、あ!」

僕はつながっている部分のすぐ上、可愛く出っ張る彼女の突起をクルクルと撫でる。君は高い鳴き声を上げる。『私はあなたより弱いです』その声は僕にそれを伝えている。

火置さんは強い。でも、触られているときは確実に弱い。普段誰にも聞かせないその甲高い声は、僕への服従の印だ。

「動いてないのに濡れてるよ?そういうもの?」

「ひ、やっ!ああっ!」

「どうしてそんなに、可愛い声になっちゃうの……」

僕は体を立てたまま『快感を生み出す突起』をなで続ける。体を立てていると火置さんの全身がよく見える。ビクッ、ビクッ!っと反応しては、ベッドのシーツを握る彼女。口を開けて、呆けた顔をして、快感に溺れている。

彼女の中も、せわしなくなる。ザラザラとした天井の壁が僕を撫でるように動き、ぷちぷちとした下の壁は一つ一つを膨らませて僕を圧迫する。君が気持ちいいと、僕も間違いなく気持ちいい。

何度でも言うよ。やっぱり、セックスって最高。君と僕は、同じ悦びを共有する。

僕はウズウズしてしまって、たまに小刻みに動いた。1,2センチくらいの前後の動きを3回繰り返しただけなのに、君は「ふわあ」と頼りない声を出して中をぎゅっと締めた。それの気持ちいいこと気持ちいいこと……。

だって僕の先端が、天井のザラザラでゴシゴシされるんだもん。君はどんどん濡れていく。僕が撫でる突起はすでに爆発しそうなくらい膨らんでいる。僕は彼女を絶頂に導くために、何度か突きながら突起への刺激を続ける。

「や、やみ、やみ、あ、あ、いや、いやぁ、はぁっ、はぁっ、ああっい、く……いくいく………っっっっはぁぁっっ!!!!!っっ!!」

彼女は声にならない声を上げて絶頂する。中がギュギュギュっと締まって、それからふんわりと膨らむ。奥から洪水のように粘液が押し寄せる。うん、僕の番だ。好きなだけ泳いでいいよって、彼女の海が僕を呼ぶ。

僕は泳ぎ始める。彼女の海で。ジュポ、ジュポと、水気の多い音が部屋に響く。彼女は動物みたいに、僕に合わせて腰を動かしている。きもちいい、きもちいい、たすけて、たすけて。そんなことを言いながら。

『助けて』って、どういうことだろう。君の中を何度も突くことは、助けることになってる?……なってないんじゃないかな。君を快楽のど真ん中に追いやって、余計に困らせているような気がするから。

火置さんは、口を開けたかわいくやらしい顔で、きもちいいを連呼した。頭がトンじゃってる、僕に魂まで屈服したその顔が、僕は大好き。

ああ、君とのセックスって、本当に素敵。僕は幸せに包まれながら、全身を震わせて彼女の中に精液を放出した。

※別の「二人の愛し方」を見る(クリックで開閉します)

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