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第一章 8月の前半
第二章 8月の後半
※近日公開
第三章 9月から10月
※近日公開
前作「夏休みの夕闇~刑務所編~」のあらすじ
主人公の一人は、22歳の男……灰谷ヤミ。彼は、『悲劇的な人生』だった。
彼の周囲では悲劇ばかりが起こるから、誰も彼に寄り付かないし、彼を愛さない。肉親さえ彼を避ける。ヤミはいつも孤独だった。
そんな彼が唯一、心の拠り所にしていたのは『自分で考えた神様』の存在。
自作の『教義』の通りに生きて、天国に行って神様に会うことだけが、彼の生きる目的だったのだ。
ヤミは、大学生になって殺人を犯す。殺した相手は『悪の中の悪』とも言える、どうしようもない男。
ヤミは自分の教義で『悪の中の悪を殺せば天国に行ける』と決めていたから、彼を殺したのだった。
そして……ヤミは殺人罪で死刑を宣告される。
死刑を待つヤミの前に現れたのが、もう一人の主人公『火置ユウ』
彼女はなんと、魔法使いだった。
時空の魔女であるユウは、世界に生まれた『時空の歪み』を直して旅する冒険者。
ヤミのいる世界に『時空の歪み』の気配を感じ、この場所に来たのだという。
『一度時空の穴をくぐると、次に時空の穴を作るまでに時間がかかるのよ。ここから出られないし、やることないしつまらないから、お話でもしない?』
ユウはヤミにそう提案し、二人はたくさんの話をする。
お互いの過去の話
ヤミの信じる神様の話
魔法の話
好きな本の話……
こんなに誰かと深く会話をしたのが初めてで、ヤミは今までにない充足感を覚えていた。自分が認められている気がして、嬉しかった。彼は日に日にユウに惹かれていく。
そしてユウも、弱さを隠さず自分を偽らない正直者のヤミに好感を抱くようになる。旅と戦いの中で生きてきたユウもまた、孤独な人生を歩んでいたのだ。
しかし無情にも、灰谷ヤミの死刑執行が刻一刻と迫る。
死刑まで残り10日。ユウはヤミに『もう少し生きてみない?』と提案する。
時空の魔法を使って、この刑務所から一緒に出ていこうと……。
ヤミは迷った。でも、彼の夢は『天国に行って神様に会うこと』。そのためだけに生きてきた。苦渋の決断で、彼女の提案を拒否する。
拒否はしたものの……ヤミは気づいてしまった。
――僕は『火置さんのことが欲しい』と思っている――と。
変わりつつあった二人の関係に目をつけたのが……怪しい刑務所の管理人『カミサマ』。
カミサマはヤミを利用して、ユウが持つ『時空の魔法の力』を自分のものにしようと企む。
ユウへの気持ちに気づいてしまったヤミに向かって、カミサマはこう約束するのだった。
――協力してくれれば、火置ユウとあなたを一生同じ空間で暮らせるようにしますよ――
僕のことを認めてくれたのは今までの人生でたった一人、火置さんだけ。
彼女は、僕が求める神様に近い存在だ。
どうしてもどうしても彼女が欲しい……。
結局ヤミは、カミサマの味方につくことを選んでしまう。
カミサマに捕まり絶体絶命のピンチに陥るユウだったが、彼女は脱出のための最終手段を用意していた。
それは『魔法で世界を創造し、そこに逃げること』。
ユウは、ヤミが持っていた生まれ故郷の記憶と、自分の魔法の力をあわせて、誰からも干渉されない『夏休みの世界』を創造する。
「ね、ヤミ。これから私と、二人っきりの夏休みを過ごす気はない?期間は未定、戻ってこれるかは不明……そもそもちゃんと夏休みが始められるかも未知数だけど」
「……何だよそれ、二人っきりの夏休みって……嬉しいに決まってるだろ……」
無事に世界の生成に成功して刑務所から脱出した二人。
二人がやってきたのは、ヤミの生まれ故郷である海辺の町と瓜二つの世界。自分たち以外誰一人いない閉ざされた夏休みの世界だった。
魂が震えるほど惹かれた相手と二人きりの世界に閉じ込められてしまったら……あなたならどうしますか――?
登場人物
灰谷ヤミ(22)
元大学生の死刑囚。男。
夕闇色の髪、金色に見える瞳を持ち、長身で細身の体型。母は病死、父は事故死で天涯孤独。
『悲劇的な人生』を歩んできた彼は死刑を心待ちにしていたが、魔法使いの火置ユウと出会い生きる意欲を取り戻す。
物腰穏やかで素直、思慮深い性格だが、一つのものを信じ通す異常な執着心があり、極度の知りたがり。そして見かけによらない負けず嫌い。
正直者かつ『自分をよく見せよう』という考えが希薄なので、『普通に言ったら引かれそうなこと』も気にせずそのまま言ってしまう。
好きなものは、海と空と猫と本。嫌いなものは、うわべだけの会話と考えなしに話す人。
趣味は読書とランニングとスイミング。特技は、暗記とバックギャモンと将棋。
火置ユウ(21)
旅しながら生きる魔法使い。女。
魔法使いになるタイミングで家族を殺されており、こちらも天涯孤独。弟がいた。
黒くウエーブしたセミロングの髪、宇宙色の瞳、やや小柄。マントのようなストールや胸当て、ボロボロのスカート、皮のブーツといった旅の装束に身を包む。
11歳の時に時空の渦に巻き込まれて魔法使いになってからというもの、『時空の魔女』として崩壊しそうな世界を直す仕事をしている。自分の仕事に誇りを持っている。
個人主義者でプライドが高い自由人。感受性が高いところが強みでもあり、弱みでもある。
周囲に入れ込みすぎずクールでいることを心がけているものの、感受性の高さゆえにクールに徹しきれないことも。
好きなものは、パンとチーズと魔法と見たことのない景色。嫌いなものは、全体主義と多数決。
趣味は、読書、歌、「魔法書」の執筆。特技は炎の魔法とナイフ投げ。
カミサマ
怪しげな刑務所を管理する、不気味で奇妙な男。世界に異変をもたらす『時空の|歪《ひず》み』から生まれた人外。本人曰く『不老不死』とのこと。
『全人類を自分に信仰させること』が彼の目的。灰谷ヤミの人生が『悲劇的』になった原因を作った張本人。なお、ヤミが信じる『神様』とは全くの別物。
2メートルもあろうかというほどの長身に長い手足。ひょろっとした体型。顔は若く見えるが、髪もヒゲも真っ白。
ヒゲは豊かで、いわゆる『神様っぽい』白づくめの装束に身を包む。見ている人を不安にさせるアンバランスな出で立ち。
やたらとハキハキした喋り方が胡散臭いうえ、話が長い。
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