夏休みの夕闇~夏休み編~ 第十五話 夏休みの夕闇の時刻に・後編

前回のエピソード

夏休みの夕闇の時刻に・後編

彼女は僕の足元に歩いてきて両膝を付き、僕の右手を手に取って自分の頬に持っていった。目をつぶって、僕の手の温度を感じている。

時間をかけながら開いた目は、涙で潤んでいた。彼女は僕の手のひらにキスをしてから、僕が履いているズボンのファスナーを下げて、下着と一緒に脱がそうとする。

あぁ、やっとだ。やっと解放してもらえる。きつくてきつくてたまらなかった。自分の手も使って、僕はズボンと下着を脱いだ。

僕のものは、まっすぐ天井を向いている。1ミリでも深く君の奥に行きたいと言っているみたいに、長く大きくなってる。自分の体の一部なのに、どうして勝手にこんなことになるのか、不思議で仕方がない。

彼女は両脚の間から、僕の目を見た。今度こそ視線がしっかりと交わる。濡れてキラキラと煌く瞳。瞬く星星が散りばめられた、君の宇宙。

彼女は静かに目を伏せ、大きくなった僕のものに視線を移す。顔を近づけて、その先端に口づけた。
まだシャワーを浴びてないのに……汚くないかな。大丈夫かな。こうなる前に『シャワーを浴びていい?』と聞けばよかった。まさかこんな展開になるとは思わなかったから。

僕の心配をよそに、火置さんは迷いなく膝の上にまたがり、僕のものを手にとって自分の中に導く。先が入り口に触れる。あ、すごく濡れてる。入り口に触れるだけでわかるほど。

ああ、どうしよう。まさかまた、この中に入れるなんて。
彼女は静かに腰を落とす。たっぷりと温かい水で満たされたその中に、僕のものが入っていく。なんて温かくて、柔らかいんだろう。中を彼女の水で満たすために、今までの時間があったのか。

その水は、僕の周りに優しく絡みついてなめらかに全体を刺激する。いい気持ち。意識が遠くに飛んでいってしまいそうだ。

切ない吐息を漏らしながら、僕の全部を自分の中に収めた火置さん。少し震えながら、小さく喘ぎながら、彼女は僕の上に座ったまま僕の身体に抱きついた。

僕達は信じられないほどぴったりと密着して、ひとつの存在になっている。震えて壊れそうな彼女を、僕もしっかりと抱きしめる。やっと彼女に触れることができた気がする。彼女の肌はふわふわで、吸い付くようで、触るだけで幸せな気持ちになれる。

火置さんの顔を覗き込むと、瞳から涙がこぼれた。……どうして泣いてるの?……でも、悲しそうには見えない。それはどういう涙なんだろう。知りたい。もっと君を知りたい。……どうして僕達は別々の生き物なんだろう。同じものになってしまえれば、君のことがなんでも分かるのに。

かすかに震えながらじっとしていた彼女が、小さく上下の運動を始めた。……気持ちよくて、とろけそう。彼女の中はクッションみたいな粘液で満たされてるから摩擦なんてほとんどないはずなのに、何でこんなに気持ちがいいんだろう。

……火置さんはどうかな……どんな顔をしてるかな?そっと目を開けて、動く彼女の顔を見る。
彼女は目を閉じて、快感に耐えるように少し眉をひそめていた。溢れそうな感情を押し込めているようにも思えた。

それでもこらえきれない息と声が、彼女の口からこぼれだす。色んなものが、彼女からこぼれてくる。その一つ一つをすくって、食べてしまいたい。こぼれ落ちたまま捨ててしまうなんて、凄くもったいないよ。

彼女の動きはとてもゆっくりだ。チャプ……チャプ……チャプ……チャプ……。ゆっくりだからこそ、彼女の中がしっかりとよくわかる。

彼女の中は……潤っていて、熱くて、イソギンチャクみたいな壁で僕を撫でてくれて、僕のものが擦れる度にヒクヒクと反応してくれる。僕を歓迎してくれているようですごく……愛おしい気持ちになる。

そんなに僕のことが必要?僕が入っていて、嬉しいの?この部屋に来てから今に至るまで、彼女は一度も喋っていないけど、表情や体からは僕を求めていることが伝わってくる気がする。

……これが僕の気の所為だったらイヤだな。

……あ、どうしよう……不安になってきた。……気の所為じゃないって、言ってほしい……。我慢できなくなって僕は、ついつい声をかけてしまった。

「……火置さん……?」

彼女は動きを止め、閉じていた目を開けて僕を見る。僕の不安を感じ取ったのか、心配そうに僕を見つめる。真剣な様子だったのに、邪魔してしまった。でも、どうしても不安で怖いんだ。

火置さんと一緒にいると、自分が大切にされているのを感じるけど……でもそれがまだ、慣れないんだよ。殺人犯の僕がこんなに大切にされていいのかな?

そんな僕の不安を包み込むように、彼女は微笑みを浮かべて僕に優しいキスをした。それからギューッと全身でしがみつく。

ああ、なんて満たされるんだろう。

大切にされることって、こんなに気持ちいいの?こんなに幸せなことがあっていいのかな?世の中の人はみんな、これを体験しているの?……だとすると、今までの僕の人生はいったいなんだったんだろう。

……色んなことが頭を巡る。今は考え事をしている場合じゃないのに、思考が浮かんでは消えて浮かんでは消える。

……彼女は僕をじっと見て、それからもう一度キスをした。今度は、しっかりと唇を押し付けるキス。

こっちを見て、って言ってるのかな。なんだか、彼女には何でもお見通しな気がする。僕の心の声が聞こえたのか、彼女は初めて口を開く。

「おいで」

その言葉に導かれて、僕は彼女をベッドに優しく押し倒す。上から見下ろす彼女はとても小さくて儚い。こんなに小さいのに、僕のほうがずっと弱い存在だ。

だって彼女はこの小さい体で、僕の体も心も全部包み込めるんだから。僕の方が背の高さも体重も、何もかもが大きいのに……彼女は物体の大きさのルールを無視して、僕の全部を包み込む。

彼女は両手と両足を広げる。僕は彼女の中心に入っていく。触れた所全部が液体になって、溶けていく。

世界でたったひとつの、安心できる場所。自分が帰らなくてはいけない場所は、ここだ。外で何があっても、耐えきれない悲劇に見舞われても、心を壊すような絶望が襲いかかっても、僕は絶対にここに帰ってこなくてはいけない。帰るべき場所は、ここなんだ。

時間の感覚がなくなって、彼女の体温と呼吸しか感じなくなる。生命が生まれた太古の海の、ちっぽけなプランクトンになった気分。プランクトンだって、最初はきっと泣きながら生まれてきたはずだ。……彼女の言葉を思い出す。

『生きたい?』

彼女がいれば、僕は大丈夫かもしれない。信じさせてくれて嬉しい。……涙が出てきそう。どうしよう、こんなの、かっこわるいよ。

僕を見て、彼女が微笑む。彼女の瞳から涙がこぼれる。一緒に涙を流しながら、生まれ直す。与えて、与えられて、一緒に永遠を感じて……何度でも生まれ直すんだ。

次のエピソード


※ユウがヤミに『生きたい?』と聞いたエピソードはこちら

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よろしければシェアしてくださいませ!
  • URLをコピーしました!