夏休みの夕闇~夏休み編~ 第二十一話 勝負の結果と罰ゲームと元彼トークと

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勝負の結果と罰ゲームと元彼トークと

10回も勝負すれば、1回くらいは勝てるはず……そんな私の甘い考えは、あっけなく打ち砕かれた。
あれよあれよと『バックギャモン勝負』の最終日が訪れ――結局、10回戦中一度も勝てないまま、最終戦も幕をおろしたのだった。

何も言えなかった。……あれだけ頑張ったのに……負けた……。

「僕の勝ち。……でも、最後の勝負は危なかった。すごくいい作戦だったな」

「…………でも、負けは負け。……すごい悔しい……」

「勝負のうちに君もどんどん強くなっていたし、あと5戦プラスされてたら危なかったかも。……勝ったから言うわけじゃないけど……すごく、楽しかった」

「…………そうね、私も、楽しかった。ありがとね、ヤミ」

「これに懲りてなかったらまたやろうよ。そもそも僕は、バックギャモンが好きなんだ。君と本気で勝負できて楽しかった」

「ふふ……よかった」

勝負している時のヤミは、生き生きしているというか楽しそうに見えた。……うん、やってよかったかな。彼が喜んでくれたという事実だけで、私はこの企画に満足しつつあった。

……しかし。

このほんわかした雰囲気で終わりになったら最高だったのに、やはりやつは忘れていなかったのだ。

「……で、罰ゲームだけど」普段と何も変わらない表情で、ヤミは平然と言ってのけた。

「罰ゲームって……」

「『君が負けたら元カレのことを教えてくれる』んだろ?」

『罰ゲーム』という表現をあえて使ったことで、嫌がることをさせてるって自覚はあるんだと理解する。……こいつ……。

「…………灰谷ヤミくん。あなた今、株を大幅に下落させたよ?そのまま終わりにしていたら、とてもいい雰囲気でラブラブだったのにね」

よくない・・・・雰囲気でラブラブっていうのも、僕は結構好きなんだ」

「……バカじゃないの……」

ヤミに対しては、あまりにも正直で引くことが頻繁にある。これは刑務所にいたときと全く変わらない。

「よし、ソファーに座ってゆっくり話そうよ。コーヒー淹れてくる」

妙にウキウキした声で、彼は言った。やっぱりこの男の頭のネジは、10本ばかし飛んじゃってるんだろう。

元彼について知ることはつらいと言っていたくせに、知りたい欲求が勝る……。心が強いんだか、欲望に弱いんだか、探究心が旺盛なんだか何なんだか、よくわからない。

ソファーに座り背もたれに体を預けて天井を見ていたら、ヤミが2つのマグカップをもってやってきた。ドリップしたてのコーヒーから放たれる香ばしい薫りは、私の心を自然に気分良くさせる。

……仕方ない、そんなに知りたいなら、教えてやるか……。

「……で、何が知りたいんですか?見た目や性格、馴れ初めだっけ?」

「うん。まず、今まで何人の男と付き合ってきたの?……もしかして女もいる?」

「……あなたを除いて、三人。全員男性よ」

「じゃあ、一人目から順に」

…………さも当然というふうに進められるこの企画。ダメ元で最後の「反発」をしてみる。

「…………あのさあ」

「……なんだろう」

資料として渡すのじゃ、駄目?今から1時間くらいもらえれば、表とかも入れてうまくまとめるからさ。私、自分の過去の話を口頭でするのがものすごーく苦手なの。刑務所にいたときも言ったよね?」

言ってたね。とヤミは言う。その後で、でも……と続ける。

「僕は君の口から直接聞きたいんだ」

「なぜ」

「その方が……ドキドキするから」

…………やっぱり変態だ。

「細かい部分がわかるから、とも言えるかな。一人目の男より二人目の男の方が好きだったのかな、とか、会話のニュアンスからそういう部分がわかるじゃないか」

「はぁ……。あなた、変だよ……」

「元カレの情報をわかりやすく資料にまとめますって提案する君も、なかなかだと思うよ」

……何も言えない。

私達は10秒位見合っていた。……結局私が根負けし、話し始める。

「……一人目は……年上の男。ある世界を旅しているときに出会ったの」

「見た目は?」

「…………濃いめの栗色だったかな。あなたほどふわふわはしていないけど、くせ毛だった」

「……くせ毛の男が好きなの?」

「え、そんなことは考えたことなかったけど……」

「…………そう?……それじゃあ、続けて?」

このあとも散々細かな点を質問され、私は記憶を手繰り寄せてどうにかそれを答え、濁した部分があるともっとハッキリ教えてくれと指摘され、気づいたら日も陰ってきて、やっとのこと3人目の話も終わりに近づいていた。

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