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夜編
「お好きにどうぞって……ちょっと、もう我慢できないんだけど……」
リビングのテーブル越しに見えるヤミの顔は、お預けを食らったワンコみたいだった。眉根にシワを作って、自分の欲求不満に苦しみながらもご褒美を期待している顔。そして……見ているこっち側にとってその「お預け顔」は、とてもかわいく見えるものなのだ。
「じゃあ、今から部屋に行く?」
「……どうしたの、今日。あんまり恥ずかしがらないな?」少し驚いた様子で、彼が私に問う。
「今日は……そういう気分。あなたの好きなようにしてほしい気分」
「なにそれ、ダメだよ、そういう事言ったら……」
「だって、バレンタインデーのプレゼントなんだもん。私はプレゼントに徹するの。あなたへの贈り物」
私がこう言うと、ヤミはまた驚いたのかちょっと目を見開いた。そして、よく見ていないと気づかないくらいの一瞬だけ眉根をきゅっと寄せてから、視線を落としてこう言った。
「…………ちょっと待ってて、これだけ食べちゃうから」
さっき私が焼いたブラウニーを、律儀に口にかきこむ彼。いつものほほんとしている彼が、急いで物を食べるなんて珍しい。
「……よし、行こう」ヤミはまだもぐもぐと口を動かしている。そんな彼がかわいくて愛しくて、すでに心臓が破裂しそう。
ちょっとでもドキドキを紛らわせるために、彼に冗談を言う。
「プレゼントだから、身体にリボン巻いたほうがいい?」
「…………想像で我慢するよ」
「ホントにやったら滑稽かもね」
「……似合うと思うよ」
「うそだあ」
なんて恥ずかしい会話。こんなの誰にも聞かせられないね。お互いにIQが50くらい下がった感じがするけど、それも悪くない。低脳モードにすると脳のリミッターが外れやすくなるから、きっとこの先のこと、心置きなく楽しめる。
二階の屋根裏部屋に入る。今日の私は、バレンタインデーのプレゼント。いつもの彼は、必ず私のことを気持ちよくさせてくれる。なんなら、自分のことそっちのけで私を気持ちよくさせることを楽しんでいる節もある。
でも、今日はそこにはあまり固執してほしくない。さっき『私はプレゼント』って言った通り、人間よりも『物』だと思ってもらったほうがありがたいくらい。だってその方が、自分が気持ちよくなることだけ考えられるでしょ?
「今日は、私を気持ちよくさせることは考えなくていいよ。ヤミの好きなようにするのが、私の気持ちいいことだと思って」
「……やめてよ、あんまりそういうこと言ったらだめだ。何でもしちゃいそうで、怖いから」
「殺すのだけは勘弁ね。まだ、あなたとの『甘い生活』を楽しんでたいから」
「当たり前だろ、やめてって。そうじゃなくてさ、めちゃくちゃにしちゃいそう」
「していいよ」
「……知らないよ」
……ああ、ダメ。会話だけで体が熱くなる。もう、ヤミを期待してる。
めちゃくちゃって……どうするの?壊すみたいに、強くするの?何回もするの?……あ、想像するだけで、気持ちいい。早く欲しい。あなたが欲しい。大好き、好き。
……いやいや、落ち着くんだ、私。ドキドキするのはわかるけど、今日はちょっと冷静にならなきゃ駄目。だってあなたを気持ちよくさせるには、私が先におかしくなっちゃいけないもの。
いつものヤミみたいに、冷静に相手のことを観察しなくちゃ。いたってクールに、状況を見て判断し、次の手を考える……そう、魔法使いとして生きる『普段の』私みたいに。
「……あ、ちょっと待って。まず、したいこと教えて?ヤミは今日、何したいの?」
キスしようとした彼を右手で制して、声をかける。そう、冷静に冷静に。焦っちゃダメ。
「……どうしたの?焦らすじゃないか。そうだな……とりあえず一緒にシャワーを浴びて……体の洗いっこしようよ。いつもはやらせてくれなそうだし」
「……そうだね、いつもはしない」
「他はね、そうだな……今日は口でしたい。お互いに。いつもは口だけじゃイカせられないと思って、指でする方が多かったから」
「……そうだね。でも今日は、私のことイかそうとか考えなくていいからね」
「だから、口でしたい。君にも、口でして欲しい。いい?」
「いいよ。ヤミの好き。口でしたい」
本当に、ヤミのすごく好き。触るとピクピク動いてかわいいし、先がすべすべしていてツヤツヤしていて、色もキレイ。
そんなに太くはないのかもしれないけど、真っ直ぐですっと長い。シャワーを浴びないでしたこともあるけど、汚いなんて思ったことはたったの一度もない。
それに、彼のその部分はなんだかちゃんと「生きてる」感じがして、とても安心する。手で包むと、ほんのりあったかいの。「生きること」が似合わない彼だってれっきとした生き物なんだって、心の底から安心する。
「後は、そうだな。後ろからしていい?君のおしり好きなんだ。すごく、やらしい気分になる」
「……うん。いいよ。好きなように……して」
「僕が疲れたら、後ろのまま君に動いてもらいたい。できる?」
「……うん。疲れたら言って。私その体勢で動くのあまり上手じゃないけど……頑張る」
「わかった。確かに後ろの時の君って、動くのが上手じゃないもんね」
グサッ。でも、その通り。
「そう、だけど……」
「でも、たどたどしい動きが可愛かったりするんだ。焦らされてるみたいで逆に堪らなくなる。こうしてほしいなっていうのがあればその時に言うから、『上手じゃない』のは気にしなくていいよ」
……駄目なところは駄目ってはっきり伝えてくれる正直なヤミが、私は好きだ。
相手をわざと傷つけようとか貶めようとかいう気持ちじゃなく、「ただ思った」ことを本心から言う彼。いいところはいいって言ってくれるし、直して欲しいところは具体的に指示してくれる。「そこまで言う?」ってことも包み隠さないから引くこともあるけど、私にとってはそのくらいがありがたい。
「……できる限り頑張るから。こうしてって言ってね」
「わかった。じゃあ、早くシャワー浴びようよ。もう待ちきれないよ」
「うん……浴びよう」
一緒にシャワーを浴びる。体の洗いっこなんて、私、今までしたことない。
セックスのときですら触らない部分まで、触りあう。くすぐったくて、気持ちよくて、恥ずかしいけどいい気分。早くあなたと一つになりたい。
バスルームを出て、体を拭いて、もどかしさにソワソワしながら、二人で手を繋いでベッドに行く。早く早く。
ベッドに倒れ込んで、キスをする。バレンタイン仕様の、長いキス。ヤミの唇、さっきのブラウニーの味がする。甘い。もっと食べたい。
唇だけじゃ足りなくなって、舌を絡ませに行く。わぁ、もっと甘い。夢中になって、舌で口の中全部を撫で回すように、ヤミの口のなかを味わう。舌と舌が触れるたび、体にピリっと電流が流れる。もっともっと、欲しくなる。
ずっとキスしてたいけど、次にいかなくちゃ……。切ない気持ちで口を離す。あ、ヤミのキレイな顔が見える。ヤミ、息が早くなってる。……ああ、かわいい……。とっても愛おしい。
思わず抱きしめる。ぎゅーっと抱きしめると、暴走しそうな心をほんの少しだけ落ち着けることができる。ヤミのことを考えることができる。
次は何してほしいのかな。さっき『口で』って言ってたな。よし、ヤミのを口で気持ちよくしよう。
ズルズルっと下に移動して、ヤミの腰辺りに顔を持ってくる。目の前に、ヤミのモノがある。
……こんにちは、今日の調子はいかが?
挨拶代わりに両手で包んで、先端にキスをする。彼のはピクッと動いて、挨拶を返してくれる。……すごくかわいい。まずは、アイスクリームを舐めるように、先っぽをペロペロと。
ペロペロペロペロ……
ヤミの息づかいが少し乱れる。ああ、それだけで嬉しい。もっともっと、息を上げて欲しい。
先だけじゃなく、全体を舐める。まっすぐのびた横、それから裏側。舌を押し付けるように、ベロン、ベロンと舐めていく。ヤミ、今どんな気持ちなんだろう。
表情を窺うと、目が合った。ドキッ、私の心臓が高鳴る。ヤミは少し苦しそうな、切ない顔をしてる。なんてセクシーなの?やだ、もっと感じさせたい。
唇で包み込むように、彼のものを口の中に入れていく。気持ちよくなってほしい。それしか考えられない。ヤミは一瞬ピクッと体を震わせる。ハァ、と、熱い息。だめだ、本当に色っぽい。変な気分になっちゃう。体が熱いよ、助けて。
口の中いっぱいにヤミのモノ。唾液を絡めて、舌で撫で回す。唇でしっかり挟みながら、顔を上下させて刺激を与える。ジュボ、ジュボ、といやらしい音がする。この音だけで、イっちゃいそう。ヤミの息が早くなる。どんな顔してる?口を離して、手で優しく扱きながら、彼の顔を見る。
「……きもちいい?」
「はぁ、すごく……っ気持ちいい……あ……」
ヤミの気持ちいい顔って、もの凄くいやらしいよ。顔を見ているだけで、濡れてくる。
たまに腰がピクリと浮き上がる。やだ、どうしよう……私があなたを滅茶苦茶にしたくなっちゃう。もっと気持ちいい顔見せて、誰にも見せられない顔をして、お願い。
「よかった……もう少し、続けるね……」
手も使って、口も使って、唾液でヌルヌルにして、あなたを気持ち良い場所に導く。頭を真っ白にして欲しい。気持ちいい以外なにも考えられなくなって。
普段は余裕がなくて全く見られない、イってる瞬間のあなたの顔が見たいの。達してるヤミの姿ってきっと、綺麗で背徳的で扇情的で退廃的だろうな。私の心臓が変な音を立ててる。見たい見たい。イってるヤミが見たい。
大好き大好きって気持ちを込めて、彼のモノを口で愛撫する。強くしすぎないように。でも気持ちよくなれるくらいの力で。もう少しでイきそう、イきそう……ってくらいの力と速さで……。
「はぁっ、はぁっ、火置、さんっ……!ダメ……だよ、あっ……きもち、いい……っ」
あぁ、どうしよう。もうすぐかな?口で受け止めようか、手で受け止めようか?口に出してもらうのも嬉しいけれど、ヤミの先っぽから出てるところも見てみたい。きっと凄くいやらしくてキレイだと思う。
どうしようどうしよう、決められないよ。ヤミ、どうしよう。私、すごく優柔不断だ。どうしよう。
「ひおき、さんっ!あっあっ!!!」
体がひときわ大きくビクンと動いて、彼が達する。私は瞬間的に、口を離す。やっぱりどうしても、出ているところが見てみたくて。
ピンク色をした先っぽから、真っ白のトロンとした液体が勢いよく出て来た。
私の想像を遥かに超えた激しさで、その液体は彼の先端から飛び出してくる。あ……出るときって、こんなになってるんだ……見ているだけで、体が疼く。いつもは私の中に、こんな感じで出されてるんだ……なんか……変な気分になる……。
彼の顔も見る。なんて顔してるの……そんな顔、誰にも見せられない。ヤミ……よだれたれちゃいそうだよ……?そんなに気持ち良かった?嬉しい。
ピクピク動くソレがかわいくて、口に優しく含んで残りを飲み干す。全然美味しくないけど、ヤミのは好き。ヤミの一部。ヤミのものは全部好き。嫌いなものなんて、なにひとつない。あぁ、好き、好き。
「あ……火置…………さん…………」
呆けた顔で視点の定まらないヤミ。頬を撫でてから頭を包み込むように抱きしめる。いっぱい出たね。気持ちよかったね。
「ヤミ……かわいい……好き…………」
遠くを泳いでるヤミの意識が戻って来たら、きっとまた、続きが始まる。
バレンタインデーの夜は、まだ始まったばかり。
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