秋の匂い・後編

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「ヤ……ミ、どうしたの?すごくぎゅっとするね」

「……ぎゅっとしたくてさ」

「ヤミはくっつくの、好きだもんね」

「安心するから」

「ヤミは安心したいんだね」

「安心したい。それに安心させて欲しい。でも、刺激だって欲しい」

「ふふ、ヤミはわがままだなぁ」

「ワガママでもいい。人生どんな悲劇に見舞われるかわからないんだから、自分に正直に生きるべきだと思う。自分を偽って言いたいことも言わずに死んでしまったら元も子もない」

「……本が一冊書けそうなくらいいいことを言ってる」

「……だろ?」

「正直なあなたが、とても好き」

天使みたいに柔らかく微笑んで、火置さんは僕の頬に口づける。君を失いたくない。仮に失ったら、僕は即刻死んで、転生して、また君を探す。ここで終わらせるなんて、絶対にしない。

「このまま、時間が止まればいい」

「……時間が止まったら、未来がないよ?」

「不確かな未来より、今だよ」

「今が永遠になればいい?」

「うん。僕はいつだってそう思ってる。未来なんて、いらない」

「…………ヤミ、そろそろ……お風呂上がりたい」

「……そうしようか」

喋らないで、手を繋いで寝室まで行く。

「もう一度、座って」

僕は火置さんに言う。

「うん」

僕はベッドの中央に座った。火置さんが僕の上にまたがり、ゆっくりと腰を落とす。海水みたいな、生命を感じる水が、彼女の中にはずっと満ちている。ついさっきまで僕が入っていたから中は柔らかくほぐれていて、大した抵抗もなく簡単に入ることができた。温かい彼女の中。お風呂で温められて、いつもよりもさらに温かい。

「ヤミ……動くね」

体をぎゅっと抱きしめて、彼女は小さく動く。切ない、愛しい。火置さんは少し苦しそうに、でも優しく、好きと言ってくれた。

「はぁ、はぁ、はぁ、ん」

少しの動きでも、気持ちよさと幸福は体の中に広がっていく。抱きしめた腕の中の体が汗ばんでいく。体の皮膚が擦れ合う刺激が、心地いい。

少し疲れてきたようだ。火置さんの動きが不規則になってきた。僕は彼女のおしりを両手で持って、何度か出し入れのサポートをしてあげた。彼女は少し高い声を出して感じていた。

反対向きの火置さんが見たくて、後ろ向きで座ってもらうようにお願いする。

火置さんはうんと言って、一度僕のものを抜いて反対向きになった。出すときと入れるときに、甘い息が漏れた。根本まで飲み込んでから、彼女は呼吸を整え、手を前に付いて動き出す。前のめりになったことで、彼女との結合部が見える。……僕はさらにドキドキしてくる。

「んっ、ん、ん、んっ」

この位置だとおしりがとても見やすい。まん丸いおしりが、たぷんたぷんと僕の性器を取り込んで上下する。僕はおしりを支えて動かしたり、少し穴を広げたりしてみた。局部が疼くのを感じる。

「そろそろ前から入っていい?」

「うん、来て」

前から入る。ゾワリ。先っぽがとろみのある熱い中に入っていって皮膚が粟立つ。

彼女は少し息が上がっているけど、とても穏やかな顔をしている。満たされる。一緒にいきたいから、彼女を高めていく。つなげたままクリトリスを刺激して、小さく奥をトントンする。

はぁっ、はぁっ、はぁっ

二人の息の二重奏。今日は二人ともあまり喋らない。僕達はセックス中に比較的よく喋る二人かもしれないけど、毎回喋ってるわけじゃないんだ。半分くらいは、喋らないやつだよ?たとえ言葉がなくたって、皮膚とか空気とか息とかでお互いを感じあえるんだから。

彼女の腰がぐぐぐっと反ってきた。気持ちよくて、いきたくなってるんだ。僕はクリトリスを指で触るのをやめて、中の刺激に切り替える。気持ちよさをにじませた息を吐きながらも、彼女は優しく僕の背中と頭を撫でる。必死にしがみついてはいるけど、優しく包みたいって気持ちを感じる。ああ、火置さん、あったかい。ずっと、ずっとこうしていたい。終わらないで、お願い、終わらないで。

「終わっても離れない。心配しないで……」

突然彼女が、揺さぶられながら口を開いた。え?僕喋ってた?参ったな、気づいていなかった。

「でも、終わりたくない、本当に終わりたくないんだ、好きだよ、好き、火置さん、好き」

「ヤミ……」

彼女は瞳を潤ませて僕を見つめた。きれいな目だな。僕に揺さぶられているのに、快楽よりも慈愛が勝る瞳をする君を、神様より何より尊敬している。僕は君には、敵わない。

負けっぱなしは少し悔しくて、せめて君のことを絶頂させようと腰を押し付ける。君は苦しそうに息を吐く。僕にぎゅっとしがみついて、胸を寄せて、ひとつになろうとする。

やがて、君がイって僕がイく。彼女は額に汗をにじませて、ずっと僕にしがみついていた。「終わっても離れない」を、その態度で表現している君。僕には過ぎた……愛しい君。

秋の匂いは、これから来る寂しい季節を思わせて、僕を息苦しくさせる。冬になっても、君は側にいてくれるのにな。僕はいつまでたっても、この病気が治らない。


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