夏休みの夕闇~夏休み編~ 第二十七話 11月の海と彼の苦悩

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第四章 11月

11月の海と彼の苦悩

僕達は3人そろって海に遊びにきていた。3人というのは……僕と火置さんと、10月末の嵐の中やってきたあの少年――リュウタを加えた3人だ。

11月13日の海は冷たい。夏はすっかり記憶の彼方に消え去り、秋も越えて冬の匂いがあたりを包む。しかし僕達はまだ、終わらない夏休みを過ごしている。

……二人っきりの終わらない夏休みなら良かったのだけど……残念ながら今は、『コブ付き・・・・の終わらない夏休み』。最高の日々は、見るも無惨な変貌を遂げてしまった。

最初あの少年を「カミサマの手先なんじゃないか」と疑っていた僕だったけど……。彼は怪しい素振りも特に見せず、不可解なことも何一つ起こらず、彼が来てからの僕達は『親戚の子供が一人遊びに来た』みたいな、至って平和的な生活を送っていた。

平和的ではあるけれど、僕は不満だった。だって、今までみたいに自由に火置さんと愛し合えないからだ。

世間の目とか、人からどう思われるとかをあんまり気にしない僕だけど、さすがに子供の目の前で彼女を求めるほど非常識ではない。

この不満を、僕は正直に火置さんに伝えていた。すると彼女は少し引いてしまうほどの真顔でこう答えた。

『……わかってる?元の世界に戻ったら、基本はこうだよ?いつでもどこでもセックスできるわけじゃないんだよ?これが普通だよ??』

正論ではあったが、納得はできなかった。それは『元の世界に戻ったら』の話じゃないか……ここは二人だけの夏休みの世界なのに……。

少年はすっかり元気になって心を開いてきていて、家に来た最初のおとなしい感じとは全く違う顔を見せていた。

簡単に言えば、すっかり『生意気』になっていた。

火置さんは『小学3年生なんてこんなもんよ』と言っていたけど、僕は子どもとの付き合いが皆無だったからよくわからない。

うるさくて生意気で、繊細な語彙で自己表現ができない『子ども』という生き物と暮らしてみて改めて、僕は子どもって苦手だなと思ったのだった。

しかも一番気になるのが、火置さんには「ねえちゃん」と呼ぶのに僕には「オマエ」とか「オイ」とか言うことだ。

大人気なく、ものすごくカチンと来る。もちろん怒ったり怒鳴ったりはしないけど、はあ、と大きめのため息は出る。

その上やつは火置さんに気安く触る。さらにいうと、僕が火置さんに触ろうとするとそれを目ざとく見つけて邪魔をしてくる。

それが僕は本当に気に入らないし、モヤモヤする。ストレスでそのうち髪が抜けてくるかもしれない。

「火置さん」

「なに?」

「僕の頭がツルツルになっても愛してくれる?」

「あはははっ!なにそれ!?」

砂浜に広げたレジャーシートに並んで座っている僕達。右を向くと見える、眉を下げて楽しそうに笑う君。とても素敵な笑顔だね。でもね、笑い事じゃないんだ。

「…………髪が抜けてくるかもしれない……」

「え、ヤミのお父さんそうだったの?」

「いや、違うけど……ストレスで……」

「もう、大げさだなあ」

あの子の存在が僕のストレス源となっていることは確かな一方で、よかった……というか、ホッとしたこともある。

あの子が来て以降、火置さんの笑顔が目に見えて増えたことだ。

彼女はあの子をまるで『弟』のようにかわいがっていた。

こうなるだろうな、とは最初から予感はしていた。彼女の過去の唯一の心残りが『弟を助けられなかったこと』だということは、刑務所にいたときに聞いて知っていたからだ。

弟のようにかわいがっている子どもが『僕の記憶から生み出された幻』であることを、彼女はしっかりとわかっているはずだ。……最終的にちゃんと別れられるのだろうか。

彼女はつまらない情に流されるようなタイプではないとわかっていつつ……それでも過去の事情が事情だけに心配になってくる。

「ねえちゃーん!見て見てー!」

波打ち際にいたリュウタが、火置さんを呼んだ。……はぁ、会話中だったのに。

どうして子供って、空気を読めないんだろうか……。いや、子供なりに空気を読むからこそ、邪魔をするのかもしれない。そこらの男よりも、よっぽど攻略の難しいライバルなのではないか……僕はそう考える。

「はぁ……二人っきりの夏休みって聞いてたのになぁ……」

思わずこぼれ出る愚痴。僕はレジャーシートに寝転び…………気づかないうちに、眠りに落ちていた。最近眠りが浅かったのかもしれない。

そして、海辺で昼寝をしていた僕は……一生忘れられないような悪夢を見る。

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