面談を終えて
「おかえり」
カミサマとの面談を終え、自分の独房に戻った僕を火置さんが出迎えてくれた。彼女の顔を見て、ホッとしている僕がいる。
『カミサマ』が彼女を認識していたということは、彼女は僕の幻覚ではなかったということだ。
「久しぶりに部屋の外に出たからか、すごく疲れたよ。カミサマとの会話も、妙にエネルギーを取られる感じがした。……僕はあいつをどうも好きになれない」
「そのカミサマって……一体何なの?」
「知らない?この国の偉い人だよ。10年くらい前かな?カミサマが国会を占拠したんだ」
「……は?……え、朝話した時、国のトップは総理大臣だって言ってなかった?」
「うん、政治的なトップは総理大臣だよ。『カミサマ』は、この国の宗教のトップなんだ」
「…………この国に国教ってあったっけ?」
「それまではなかったよ。カミサマが来てからは、一応国民の宗教は『カミサマを信じること』になった。……だからといって以前と何が変わったというわけではないけどね」
「ちょっと……どういうこと?」
火置さんはいまいち事態が飲み込めないらしい。そうか、やっぱりこれは異常なことなのか。
あまりにもその状態が続きすぎて、最近はこの国に『カミサマ』がいることに何の違和感もなくなっていたけど、やっぱりおかしいんだ。
「カミサマがいる、というだけで国は普通に動いているんだ。さっきも言った通り総理大臣もいるし、裁判官もいる。ただその一角にカミサマがいるだけだ。
もしかしたら行政、立法、司法にカミサマが関与しているのかもしれないけど……実際、刑務所のひとつをカミサマが管理しているんだから、少なくとも『行政』には関与しているんだろうな……とまあ、実態としてどうなっているのかは僕らみたいな一市民にはわからないし、生活には何も変わりがないよ。そういうものなんだ」
「え、………カミサマって……何?人間?」
「人間以外に何があるんだ?自分でカミサマって名乗っているだけだろ?……やめてほしいけどね。僕が信じる『神様』とは全然違う存在だし」
彼女は『全くわけが分からない』という表情でぽかんと口を開けている。
「え……この世界は、こんなことになってたの?」
「そうだよ。君はこの世界出身って言ってなかった?知らなかったんだ」
「私がこの世界を離れたのは……11歳のとき。だから……ちょうど10年前くらいね」
「もしかしたら、入れ替わりの時期だったのかもね」
「……そうなのかも」
会話が一段落したちょうどその時、独房の扉がノックされた。……今日はやたらと騒がしい日だな。
すると扉が開き、さっきと同じ看守が現れた。
「シャワーの時間だ。シャワールームは廊下の右を進み、突き当りを左に曲がった所にある。一部屋しかないから、交代で浴びてくるように」
僕達は顔を見合わせる。なんだか普通の刑務所生活っぽくなってきた。
「……お先にどうぞ?」
火置さんが僕に先を譲ってくれた。僕はシャワーを浴びに行くことにする。
「刑務所編」の目次を開く
第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
- 第七話 2日目の朝 火置ユウの目覚め
- 第八話 2日目の朝 灰谷ヤミの目覚め
- 第九話 二人の朝ご飯
- 第十話 ヤミの神様
- 第十一話 神様との出会い
- 第十二話 カミサマとの邂逅
- 第十三話 第一回カミサマ面談
- 第十四話 面談を終えて
- 第十五話 シャワーの時間
- 第十六話 口喧嘩
- 第十七話 闇に沈む記憶
第三章 探索
- 第十八話 自由時間
- 第十九話 刑務所探索その1
- 第二十話 図書室にて
- 第二十一話 ヤミの違和感
- 第二十二話 ヤミの神様の話~光の救世主~
- 第二十三話 出会いから5日
- 第二十四話 彼女はいかにして魔法使いになったのか その1
- 第二十五話 ヤミの神様の話~禁忌の4項目~
- 第二十六話 カミサマとあなたのお話
第四章 夢
- 第二十七話 よき友人とは
- 第二十八話 彼女はいかにして魔法使いになったのか その2
- 第二十九話 続・カミサマとあなたのお話
- 第三十話 彼の話を聞く その1
- 第三十一話 ヤミの神様の話~神様の愛~
- 第三十二話 神様の夢
- 第三十三話 もう一人の死刑囚
- 第三十四話 Clair de Lune
- 第三十五話 私の決意
- 第三十六話 刑務所探索 その2
- 第三十七話 彼の話を聞く その2
- 第三十八話 放棄された刑務所
- 第三十九話 刑務所内の追いかけっこ
- 第四十話 ヤミの心の中
- 第四十一話 その日の夜、彼は夢を見る
第五章 闇(連載中)
- 第四十二話 面談前のアイスブレイク
- 第四十三話 第二回カミサマ面談
- 第四十四話 第二回カミサマ面談を終えて
- 第四十五話 闇に沈む記憶 その2
- 第四十六話 別々の部屋
- 第四十七話 彼の殺人~ヤミの神様の話
- 第四十八話 灰谷ヤミの罪
- 第四十九話 死刑まで2週間を切った彼がシャワー室で考えた事とした事
- 第五十話 動かずのエレベーターの正体
- 第五十一話 火置ユウのカミサマ面談
- 第五十二話 ジストニア
- 第五十三話 決別
第六章 真実
最終章 二人の夏休みへ
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