夏休みの夕闇~刑務所編~ 第十三話 面談を終えて

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第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
第三章 探索
第四章 夢
第五章 闇
第六章 真実
最終章 二人の夏休みへ

面談を終えて

「おかえり」

カミサマとの面談を終え、自分の独房に戻った僕を火置さんが出迎えてくれた。彼女の顔を見て、ホッとしている僕がいる。

『カミサマ』が彼女を認識していたということは、彼女は僕の幻覚ではなかったということだ。

「久しぶりに部屋の外に出たからか、すごく疲れたよ。カミサマとの会話も、妙にエネルギーを取られる感じがした。……僕はあいつをどうも好きになれない」

「そのカミサマって……一体何なの?」

「知らない?この国の偉い人だよ。10年くらい前かな?カミサマが国会を占拠したんだ」

彼女は口をぽかんとあけて、どういうこと?と尋ねた。僕はカミサマについて知っていることを彼女に話した。

カミサマはこの国の宗教的トップであること、国民の宗教は『カミサマを信じること』になったこと、だからといって以前と何も変わっていない……ということを。

要点を端的に説明したつもりだったけど、それでも彼女はいまいち事態が飲み込めないらしい。

あまりにもその状態が続きすぎてこの国に『カミサマ』がいることに何の違和感もなくなっていたけど、やっぱりこれは異常なことなのか。

「え、………カミサマって……何?人間?」

「人間以外に何があるんだ?自分でカミサマって名乗っているだけだろ?……やめてほしいけどね。僕が信じる『神様』とは全然違う存在だし」

「私がいない間に……この世界はこんなことになってたのね……」

カミサマについての会話が一段落したちょうどその時、独房の扉がノックされ『シャワーの時間』が告げられた。こっちを見た火置さんは、首を傾けて「お先にどうぞ?」と一番を譲ってくれたのだった。

僕は5日ぶりのシャワーを満喫した。大して動きもせず室内いただけだから汗ひとつかいていないけど、それでもやっぱり生き返るような心地がする。前にいた刑務所のように『5分で交代しろ』と言われることもなかったから、これ幸いとゆっくり浴びさせてもらった。

独房に戻ると、火置さんがシャワーに行く準備を整えていた。

「そう言えばさ、私がいるってことをその『カミサマ』は知ってるってことだよね?当たり前のように交代でシャワーに行けとか言うんだから」

「君のことは把握していたよ。着替えとかも……用意してくれてるんじゃないのかな、多分だけど」

「うん、確認してみる」

そう言って火置さんは、スタスタと独房を出ていった。

……シャワーを心ゆくまで浴びることができて、常に話し相手がいる生活か。……なんだか、驚くほど普通に快適だ。家に一人でいるよりも、もしかしたらずっと楽しいかもしれない。

20分ちょっと経った後、火置さんが部屋に戻ってきた。彼女はゆったりとした部屋着に着替えていて、いつものブーツではなくスリッパに履きかえている。

10センチのヒールがなくなった彼女は、さっきまでよりずっと『普通の女の子』に見える。

火置さんの髪はしっとりと濡れていて、雰囲気がいつもと違う。僕と同じシャンプーと石鹸を使っているはずなのに、彼女の方がいい匂いに感じるのはなぜだろう?

「ちょっと話さない?」僕は彼女を会話に誘う。

「いいよ。もしかしてヤミって、会話に飢えてるの?」

「……そうなのかもしれない」

「ふふ、いいよ。ご飯まで話そうか」

やった。

「あのさ……君って……僕の『神様』の話を聞いて、どう思った?さっき『思想に合わない』って言ってたけど」

「自分で神様を作ったっていう話はおもしろいと思ったよ。思想に合わないっていうのは……あれね、チェックリストで他人を評価することに対してそう思ったの。私がされたら、ちょっとやな感じって思うかなって」

「……でも、チェックしたからといって何ってわけじゃないんだよ?会う人全員をチェックできたわけでもないし。……それに、君は絶対に『光側』だと思う。間違いないよ」

「あのね、光だからとか闇だからとかそういうことじゃないの。人を品定めしてるみたいで嫌だなって、そう言うことよ」顎に手を当てて、彼女はこちらを見ながら言う。
「だいたい、昨日のチェックと明日のチェックも変わるかも。人間って結構気まぐれで曖昧じゃない。だから、私ならチェックリストの結果でどんな人かって決めつけられたくない」

火置さんの瞳は真剣だった。怒っているというよりも、思ったことをそのまま伝えてくれている感じがする。

「……結構はっきり言うんだね」

「あなたも包み隠さずはっきりしてるじゃない。私なりの礼儀として、あなたにははっきり物を言おうと思ってる」

「嬉しいよ」

「……嬉しいんだ」彼女の表情が和らぐ。

「……火置さんは神様の話をしても嫌がらないんだね」

この言葉のあと、彼女は不思議そうな顔をしてこっちを見た。

「自分の神様の話をすると、だいたい周囲に嫌な顔をされていたんだ」

「へえ、そうなの?こんなことを考える人がいるんだって、すごく面白いと思うけどなあ」彼女は朗らかに言う。ころころと変わる火置さんの様子を観察することを、僕は結構楽しんでいる。

「もっと早く君と会えてたらな」

「難しいこと言うわね」

少し黙る僕ら。会話の合間の無言すら、僕にとっては新鮮だ。誰かと話すことって、こんなに楽しいことだったんだな。今更ながらに気づいて少しばかり感動する。

「……そういえば、火置さんの家族や友達は?……恋人はいるの?」

昨日会話した時、僕の人間関係については簡単にだけど伝えていた。家族も友人もいない……ということを。火置さんはどうなんだろう。

「家族は死んでる。友達は……その場限りのなら、たくさんいるかな……。時空を超えて転々と旅しているから、ずっと仲良しってわけに行かなくて。恋人は……秘密」

彼女の回答はいつも簡潔で無駄がない。自分の情報を教えたくないのか、無駄話が壊滅的に苦手なのかはわからない。

「……そうなんだ」

「ていうか、ヤミこそ恋人いないの?あなた、きれいな顔をしているしスタイルもいいからモテそうじゃない。大学で話題になりそう」

また僕の話に戻ったな。ま、いいか。

「……確かによく話しかけられた」

「ほら!」目を開いて手を叩く火置さん。

「でも、全員漏れなく『神様』の話をすると逃げていったよ」

「あちゃー!そういうときは最初は隠すのよ!様子を見て小出しにすればいいの!」火置さんは妙に楽しそうだ。でも、僕はその『楽しさ』がよくわからない。

「……どうして?気が合わない子と一緒にいても仕方がないから、むしろそれでいいと思ってた」

「…………変わった人ね……」

「それに、僕に話しかけてくる子は例外なくみんな、チェックリストで『闇側』の方だったんだ。しかも真ん中よりちょっと闇……くらいの闇側」

この話を聞いた火置さんの表情が少し歪む。やっぱり彼女はチェックリストの話が嫌いらしい。

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