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第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
第三章 探索
第四章 夢
第五章 闇
最終章 二人の夏休みへ
神様の夢
とても久しぶりに僕は、神様の夢を見る。
僕の周囲には、何もない。ただただ光だけが満ちている。光があまりにも強すぎて、自分の体すら、どこにあるかわからない。もしかしたら僕には体なんてなくて、意識だけが光の中に浮いているのかもしれない。
『僕』はどこ?
僕って、いったいなんだ?
自分の体が見当たらなくても、僕だって言っていいの?
でも、僕は確かに光の中にいる。それはわかるんだ。だって『暖かい』し『眩しい』のを感じるから。
刺激に対する知覚、そしてはっきりしとした感覚。それらがあるから、僕はちゃんとここに存在しているんだって思える。
僕は疑いようもなく確実に、光の中にいる。
僕の全身を、光の粒子が包み込む。光に実体はないはずなのに、それは僕の肌に『触れられた』感触として残る。
ピッタリとした膜が、僕の全身に張り付いていく感じ。その膜は空気の存在を許さないほど隙間なく全身を覆うから、当然僕の体の内部にも侵入してくる。鼻の穴から、耳の穴から、口の中にも。
でも不思議と苦しくないし痛くない。不快感もない。あるのは全てを許されたという安心感と気持ちよさだけだ。
僕の全体が、光の薄膜に覆われていく。皮膚だけでなく、体の内側にある臓器も全部。
その光はごく薄い膜のはずなのに柔らかくて、弾力があって、つるつるしているようなすべすべしているような、でもふわふわもしていて、すごく懐かしさがある。
この正体不明の『懐かしさ』は、なにか生命の根源的な記憶に根ざしている気がする。
きっと全ての人はみな例外なく、生まれる前にこの光の膜に包まれたことがあるに違いない。
僕はこの光の膜そのものが、神様なのだと思う。
光は全てを分け隔てなく照らしてくれる。光があれば、闇は消えてしまう。闇の中に光を射すことはできても、光の中に闇を射すことはできない。光はどこまでもまっすぐで、強くて、平等だ。
僕は光に包まれたい、神様に愛されたい。そのためなら、死んでもいい。改めて、強くそう思う。
この世の誰よりも強く光を求めるから、この世の誰よりも強く神様のことを思うから、だから僕のことを愛して欲しい。僕の中にある闇を光で消し去って、癒して欲しい。
もっと愛して、もっと愛して、もっともっと愛して……。目覚めずにいつまでも見ていたい夢だったのに、エクスタシーを感じる直前でその夢は終わってしまった。
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