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第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
第三章 探索
第四章 夢
第五章 闇
最終章 二人の夏休みへ
彼の殺人
僕は高校を卒業し、大学に進学した。そこで、誰に会ったと思う?……きっと今までの話を聞いてきた君ならすぐに予想がつくはずだ。
そう、交通事故一家の、最後の生き残りと会ったんだ。僕達は同じ大学に進学していた。僕は経済学部で、彼は法学部だった。
「……あなたが殺したというのは、その人?」
「そう、僕はそいつを殺したことで死刑を宣告された」
「なぜ、殺したの?」
「僕には彼を殺さなくてはいけない理由があった」
「……人を殺さなくてはいけない理由なんて、ある?」
「『英雄』になるために必要なんだ」
「……英雄?」
「闇側の人間が唯一救われる方法。神による恩赦を得る方法だよ。僕の神様の話も、これで……最後になると思う。最後の教義は『英雄と救い』だ」
ヤミの神様の話~英雄と救い~
僕の教義の柱となる『光と闇を分けるチェックリスト』。ここに半分以上のチェックがつかない人間は『闇側』となり、死んでも神様の元には行けない。そして悲しいことに、僕自身はどう考えても闇側の人間だ。
ただし、闇が救われる方法がたった一つだけあるんだ。それが『英雄』になること。そして英雄とは、悪を殺す悪のことだ。
『禁忌の4項目』で説明した通り、僕の神様は殺人を良しとしない。どんな理由があろうとも、生きるため以外の殺人はすべて悪に分類される行為だ。
でも……悪を滅するための殺人であれば、救いがある。神様が個人的に愛してくれて、その後天国に行ける。
英雄は汚れているけど、神様に愛されることで闇が払われキレイになれる。神は全てを浄化してくれるんだ。神様が英雄をキレイにしたあとで、その英雄は天国に迎えられる。
「……英雄になるための条件は?」火置さんが尋ねる。
二つ条件がある。
一つは、いずれかに分類された『悪の中の悪』を殺すこと。
『光と闇を分けるチェックリスト』の全てがバツがつく人間。または『禁忌の4項目全てを満たした人間』をね。どちらも……っていうパターンもあるかもな。そんな人間がこの世にいるとは信じたくないけど。
二つ目の条件は、自分自身が『禁忌の4項目』に該当しないこと。だからもちろん、殺すべき人間以外を殺してはいけないし、自殺をしてもいけない。強姦や洗脳もダメだ。
でも正直に言うと……まさか『禁忌の4項目』全てを満たした人間に会う機会が自分に巡ってくるとは思わなかった。奇跡だと思った。だってそんな醜悪な人間がこの世に存在するなんて、信じられなかったから。
光と闇を分けるチェックリストの全てにチェックがつく『光の救世主』になかなか出会えないように、全てを満たさない『悪の中の悪』にも会えるはずなんてないと思っていた。
でも、いたんだ。僕は見つけてしまった。しかも、3歳の頃にすでに会っていたんだ。
そう、僕の交通事故の相手の家族……その子どもの一人。僕と同い年の、男の子。やつは、悪の中の悪だった。
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