前回のエピソード
「刑務所編」の目次を開く
第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
第三章 探索
第四章 夢
第五章 闇
最終章 二人の夏休みへ
第二章 神様
2日目の朝 灰谷ヤミの目覚め
~灰谷ヤミの死刑まで残り24日~
刑務所の朝は早い。
6時には点呼が始まって、7時30分には朝食が運ばれてくる。消灯時間も21時と早いから、朝は何の苦も無く目覚めることができる。こんな規則正しい生活を続けていたら、多分長生きができるだろう。死刑囚にこんな健康生活を強いるなんて、皮肉な話だと思う。
……といっても、看守によって点呼が行われていたのは、この『特別棟』に移されるまでの話だ。
ここに来て5日経つが、独房の扉はまだ一度も開けられていない。僕は未だに看守と顔を合わせていないのだ。
そういえば……この棟に移される直前、別の囚人からこんなことを言われたのを思い出す。
「お前が明日行く棟って……あれだろ。『カミサマ』が自ら管理してるっていう特別棟。
あそこに行ったやつは絶対にこっちに戻ってこられない。面会だってできなくなるし、部屋の外に一歩も出してもらえないって噂だ。……あそこに行ったら最後、頭が狂って死ぬまで部屋に閉じ込められるらしいぜ……。
……あ、お前はどっちにしろ死刑になったから帰る予定はないんだったか!それじゃあ、あんまり関係のない話だったな!悪い悪い!」
あのときは『ただの噂』だと思って話半分に聞いていたけれど、もしかしたら本当だったのかもしれない。
死刑執行までこの部屋から出られないのかな?それはちょっと厳しいかも。……とりあえず、そろそろシャワーを浴びたい。
「おはよう。……よく眠れた?」
朝から考え事の海の中を漂っていた僕の耳に入ってくる、クリアなアルトの声。
そうだ。僕は今、一人じゃないんだった。えっと……そうだ、火置さん。火置ユウとの共同生活が始まったんだった。
火置ユウ。21歳。黒髪の魔法使い。この広い宇宙でたった一人の、時空の魔女。
「……おはよう、火置さん起きてたんだね。一人じゃないってことを、すっかり忘れてた」
「…………なかなか衝撃的な出会いだと思ってたのに、忘れちゃってたの?あなたって結構マイペースなのね……」
彼女は肩を竦めながら話す。昨日もそうだったけど、彼女はちょっとシニカルな物言いをする。……そういう雰囲気は、嫌いじゃない。
「あ、そういえば……さっき扉がノックされてたよ?一瞬ドキッとしたけど、誰も入ってこなかった」ふと思い出したように彼女が言う。
そうか、今の時間は……7時40分。おそらく朝食のトレーが運ばれてきたんだろう。僕は布団を畳んで脇に置き、扉の下部に設置された小窓を開けて朝食を部屋の中に引き入れた。
チラチラとこっちを見る彼女に朝食の半分を勧め、最初は遠慮していた彼女だったが結局全てのメニュー――白米と焼き鮭とほうれん草のお浸しとわかめの味噌汁――を二人で分け合った。
満腹には程遠いけれど、誰かとの朝食が久しぶりで僕は存外に満足できた。……彼女の腹からは絶えずクルクルと音が聞こえていたから、満足できたのは僕だけだったみたいだけど。
次のエピソード