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第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
第三章 探索
第四章 夢
第五章 闇
最終章 二人の夏休みへ
ヤミの心の中
独房に戻ってきた僕達は、生きて戻れたことを互いに喜びあった。その後さっき起こったことを話し合い、三つの結論に達した。
一つは、『カミサマはただの刑務所管理人じゃない』ってこと。
もう一つは、『ここはやっぱり時空の歪みの真っ只中にある』ってこと。
そして最後の一つは……『僕が本当に死刑になるのか、今一度確認した方がいい』ということだ。
火置さんは言った。
「見たでしょ?あの囚人達。……そもそも囚人なのかもよくわからないけど……。あなたさ、これからあそこの一員にされるって可能性もあるんじゃない?何かの実験台にされるとか、拷問好きのカミサマのおもちゃにされるとか……。もう一度ちゃんと、あなたの今後について確認した方がいいと思うよ」
「……明日は多分カミサマ面談がある。聞いてみるよ」
「……ちゃんと教えてくれるといいけどね……」
彼女はいつも通り、肩を竦めながら言った。いつもの場所でいつもの火置さんで、僕はホッとした。
この会話を最後に、僕たちは寝ることにした。あんな事があって興奮はしていたけど、安心したからかベッドに横になると泥のような眠気が襲ってくる。
僕はうとうとしながら…………火置さんの体の柔らかさを思い出していた。
僕を抱きしめた彼女は、ふわっとしてとてもいい匂いがした。なぜだかその時に強く『生きてるんだな』って思ったんだ。
最近、彼女と一緒にいると、胸の痛みを感じる事が多くなった。だって、僕と彼女は何もかもが違いすぎるから。
彼女は『世界を救う魔法使い』、そして僕は『殺人犯で死刑囚』。まさに光と闇……正反対だ。世界から求められている彼女に……羨ましさすら覚えるようになっている。
胸が痛くなるのはそれだけじゃなくて。僕は本気で『どうしてもっと早く火置さんと会えなかったんだろう』って思ってしまっている。
今までも冗談程度には考えたことだけど、もはやそれとは性質が違う。絶望を感じるほどに……あり得ない『もしも』を考えてしまうんだ。
『もし彼女にもっと早く会えていたら、僕の人生の何かが大きく変わっていたかもしれない』
でもそんなことを考えても何の意味もないことを、僕は知っている。知っているのに、考えだすと止まらない。
無駄なことを考えるのはつらい。自分で自分の首を絞めるだけだ。でも頭の中に考えが浮かぶことって、なかなか止められないから難しい。
今日彼女と冒険してるときふと『こんな日がずっと続けばいいのにな』って考えてしまった。考えた後に、なんて馬鹿なことを考えてしまったんだろうと、自分が嫌になった。お前は死にたかったんじゃなかったのか?今さら日和ってどうするんだ……。
昨日までは、死刑へのカウントダウンをそれなりに楽しく過ごしていたのに、明日からまたちゃんと楽しめるか、自信がなくなってくるな。
………………。
……そうだ、こういうときは、神様のことを考えよう。僕の神様。僕の、僕だけの、優しく偉大で強く美しく全能の神様。
神様に愛されることが、僕の夢。
神様に愛されることが、僕の生きる目的。
僕は神様の敬虔なる信徒であり忠実な下僕。
早く、あなたに会えますように……。
天国に向かって祈りを捧げ、僕はベッドの上で目を閉じる。
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