夏休みの夕闇~刑務所編~ 第四十二話 第二回カミサマ面談を終えて

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第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
第三章 探索
第四章 夢
第五章 闇
第六章 真実
最終章 二人の夏休みへ

第二回カミサマ面談を終えて

部屋に戻ると、火置さんはいつもどおり窓際のベッドに腰掛けて自分の魔法書を書いていた。

僕と目を合わせた彼女は、小さく「おかえり」と言う。僕は「ただいま」と答えてから、彼女にカミサマからの伝言を一言一句そのまま伝えた。

それを聞いた火置さんは「向こうから来てくれるならありがたい」と言い、刑務所探検をしばらくお休みすることを宣言をしたのだった。

その後僕は、カミサマ面談の内容を彼女に話すことにした。火置さんは難しい顔をして顎に拳を当てながら何かを考えている。そして顔を上げ、彼女は切り出した。

「ヤミ、あなたの話を聞く限り……やっぱりカミサマはあなたを使って何かをしようとしているんじゃない?」

「……どういうこと?」

「あなたの信仰心の謎を解明したいんでしょ?……どうやら彼は『信仰されたい』って思いを拗らせているみたいだし……実験動物にされそうじゃない?大丈夫かな、あなた本当に死刑になるのかな」

大丈夫かなっていうのも変だけど……と彼女は付け加える。

「……そう、だね。確かにやつは『心理学的実験』だとか『学術的取り組み』だとか言っていた。もしかしたらこの刑務所自体が、やつの巨大な実験場なのかもしれない。ただ……」

「ただ?」

「ただ、カミサマは『僕が死刑になるのは神に誓って本当』なんだと言った。それはきっと……間違いないんだと思うよ」

「『神に誓って本当』ですって……?全然信用ならないわね……」

僕と同じセリフを言う火置さんに、思わず笑みが漏れる。

「ん?どうした?」

「いや、気が合うなって……」

「……?」

「それにやつは、僕が死んだ時の案も何かしら考えているみたいだった。何となくだけど……やつは僕に対してそこまで執着を持ってないように感じるんだ。『死んだら死んだでしょうがないですね』みたいな。……どちらかと言うと、君の方が心配だよ。目をつけられている感じだったから」

「私は……大丈夫よ。クレイジーな輩やからとの戦闘は経験があるし」

……言うと思った、君は『大丈夫』って。君が『ヤミ、助けて』とか『ヤミ、怖い』とか言うことってあるのかな。天地がひっくり返ってもなさそうだ。

「……あの、さ。火置さん」

「ん?」

「あまり考えたくないことだけど、もし万が一僕の死刑が執行されないなんてことがあったら……君が持っているそのナイフで、僕を殺してくれよ」

……火置さんが厳しい目でキッと僕を見る。その顔は明らかに怒っている。彼女の周りに、静かな怒りの炎が見える気がする。

「……何言ってるの?」冷たい口調の迫力に、僕の腕の皮膚は小さく鳥肌を立てる。

「君にしか頼めない」

「絶対に嫌」……酷いな、死刑囚の切実なお願いを聞いてくれないんだ。

「なんでだよ……君なら僕の幸せが何かをちゃんとわかってくれてると思ってたけど、違ったか?」

「……あなたのことなんて私は何もわからない。大体、自分では殺人が禁忌とか決めてるくせに、人には殺人させようとするわけ?」……本当だよな、僕は君にとんでもなことを言っている。……にしてもこの鳥肌はなんだ?彼女が怖いから?……このやりとりに一種、興奮しているから?

「だけど君は神を信じていないし、死後の世界も信じていないんだろ。そんな君には『禁忌の項目』は関係ないじゃないか」

「やめて、そういうの。絶対に嫌だから」

「……そう」

ピリピリとした嫌な空気が独房内に満ちる。彼女は今までになく怒っているようで、その日僕とは一度も目を合わせず、当然話しかけてくることもなかった。

僕はといえば………………とても満足していた。

火置さんが本気で怒っている。友達に『殺してほしい』なんて言われて、ものすごく傷ついたんだろう。
そうやってどんどん僕の死を身近に感じて、忘れたくても忘れられない存在にしてくれれば、僕は思い残すことはない。

……それに、僕の予想はこうだ。火置さんは、もし僕が本当に死刑にならなかったら……そして僕が涙を溜めて全身全霊で彼女に『殺してくれ』とお願いしたら、苦しみながらも僕を殺してくれる気がしている。

彼女はとても優しい。きっと自分の痛みを差し置いて、死にたいと切望する友人の願いを叶えてくれるんじゃないだろうか。

もし彼女に殺されるとしたら、僕が死んだ後に彼女の様子を見られないことだけが心残りになりそうだ。僕を殺した彼女はどんな表情で何を言うのかが、すごく気になる。

……でも、そうか。僕は天国に行けるから、天国から彼女の様子を確認できるんだ。

うん、すごく幸せな結末だ。僕が死刑にならない未来も、なかなか悪くないかもしれないな。僕の口元は自然とほころんでいた。

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