夏休みの夕闇~刑務所編~ 第四十八話 動かずのエレベーターの正体

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第一章 夕闇の出会い
第二章 神様
第三章 探索
第四章 夢
第五章 闇
第六章 真実
最終章 二人の夏休みへ

動かずのエレベーターの正体

~灰谷ヤミの死刑まで残り12日

ヤミの死刑まで、あと12日か……。

日に日に気が重くなる。私は彼に死んでほしくない。でも彼は、変わらず死にたいと思っているようだ。あと2週間弱で……ヤミのことを『生きたい』と思わせられるかな。

私が自分勝手に彼を生かしても意味がない。彼が、彼自身の意志で『生きたい』と思ってもらわないと。

まだ、自分がどうすべきか、何が正しいのかはわからない。でも、とりあえず私は私のやるべきことをやるしかない。

今日も私は、エレベーターの前にいた。自由時間に一回は必ずこの『動かずのエレベーター』のボタンを押すようにしていたのだ。ダメ元で、『何かが起こるかも』と期待して。

ポチ

…………………………

…………………………

「ま、動かないよね……」

そりゃ、そうだ。だって、1日3回、半月近く押し続けて一度も反応していないんだから。

「……お茶でも飲むか」

独り言と共に後ろを振り向く。と、

「お会いできて光栄です!はじめまして、ですね。火置ひおきユウさん」

不覚にも、体がビクリと反応してしまう。何の気配もなかったから。そして……まだ名乗られていないのに、すぐにわかる。こいつがきっと……。

「……カミサマ……ね?」

「ええ。私はカミサマです。ずっとあなたとお話したかったんですよ。では、こちらへどうぞ」

そういって彼は私の体の左奥に腕を伸ばし、エレベーターのボタンを押した。……気持ち悪いくらい長い腕。

チーン

「!?動くの?」

「……?そりゃ、そうでしょう。何のためのボタンですか……。さ、乗りますよ。お先にどうぞ。レディーファーストです。……あ!ごめんなさい、その前に」

彼がそう言うと、カミサマの背後からぬっと姿を現した看守が瞬時に私の両手首を掴む。

「!?ちょっ、と……!どういうことよ!」

残念ながら、全く振りほどけない。……そう、魔法の使えない私は、ただの、ナイフがちょっと使えるだけの、ひ弱な女にすぎないから。……クソッ。

看守が押さえている間に、カミサマは私の両手首に手錠をかけた。

「あなたは私にとっての危険人物なんで、こうさせていただきました。私、ものすごく慎重派なんですよ。油断してヤられる悪役の気持ちがまるでわからないんです。ヤられたいの?と思っちゃいます」

「……自分が悪役だって自覚しているの?」

「少なくともあなたにとっては悪役でしょう?死を望む灰谷ヤミにとっては『救いのカミ』かもしれないですが。ささ、お話は部屋でゆっくりしましょう。お先にどうぞ」

カミサマはもう一度エレベーターのボタンを押して扉を開けた。私は看守によってエレベーターの奥に押し込められる。その後ろからカミサマが入ってきて、背後で扉が閉まる気配がした。

そして…………上に行くのか下に行くのか構えていた私の目の前で、壁が真ん中から左右に割れた。どうやら入り口と出口が反対についているタイプのエレベーターだったらしい。……いや、エレベーターなのか?ここは時空が歪んでいるから、空間の常識は通用しないのかも。

「先へ進んでください」

いくつかの階段を越え、角を曲がり、私はカミサマの部屋にたどり着いた。この部屋は彼にしかわからない場所に隠されているのだと理解する。ピアニスト死刑囚の言葉、『カミサマへの道は毎回変わる』。一つの道を覚えたところで、次は同じ道を使えるとは限らない。

真っ白な部屋のど真ん中に木の椅子が二つ。カミサマは私を追い越して、入り口の奥側に腰掛けた。「さ、どうぞ」とやつが言う。私は看守に付き添われながらもう一つの椅子に腰掛ける。

「いやー、会えるまでが長かったですね!話そう話そうと思いつつ、あなたが来てから半月も経ってしまった。私もこれで結構忙しくてですね、時間がとれなかったんです」

「……いいのよ、別に。会えて嬉しい」

「お、嬉しいこと言ってくれますね?灰谷ヤミよりよっぽど好感が持てます。さてさてそれでは始めましょうか、みんな大好きカミサマ面談の時間です」

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